あるまじろまんじろう

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 人生最悪の日!
「取り敢えずおいで」
 入学式が終わり、教室でのガイダンスも終わった、放課後、人通りのないアメリカンフットボール部の部室前で、可哀想に、ガリ勉坂本洋一は地面に固着したように突っ立っていた。
 冒頭にちょっとカマっぽい言い方で洋一を呼んだ悪魔笹川隆二の手前、「おら」目つきを鋭くした舎弟佐野の一喝で、ハッとして洋一は一歩、二歩、部室の入り口をくぐった。
 舎弟佐野は洋一が確か、クラスのガイダンスで見た顔だった。自分のクラスメイトなのだ。だが、入学初日に番長みたいな先輩と、校舎の中で煙草をふかすなんて、ヤバいやつじゃないか。クラス委員長をするようなタイプの洋一には到底理解できない。不良だ、ヤンキーだ。関わったらあかんやつら。
 たじろいて洋一は「いや」とひねりだす。
「いや、あの、もう行かないと」
 佐野の目つきがいよいよ手負の猛獣のようになるので、とうとう言葉尻が聞こえたのか分からないほど弱々しくなったが、あくまでも悪魔笹川隆二は笑顔だった。
「あはは、だめだめ。かわいいなお前、馬鹿まるだしでさ」武骨な腕が徐に箱から一本、新しいものを取り出す。銘柄が印刷してあるが、洋一にはそれが煙草であることしか分からない。
「見ちゃったんだからさあ、ね。いちおう、口止めってことで」
 人生最悪の日!
 受験当日、風邪をもらって、県内有数の不良高校に已む無く入学することに決まった悪夢の日々と同等に!



ありがとう

2/15/2025, 5:49:49 AM