夏の魔法使い

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『可愛いね』

 私には、意地悪な母と姉、そしてそいつらに意地悪されてる妹がいる。姉と母と私がパーティーに行っている間、妹は洗濯や掃除、花の水やりをやっている。私が妹もパーティーに連れて行こうとか、家事をみんなでやることにするとか、言ったけど聞いてくれなかった。妹は亡くなった父の連れ子だから、可愛がりたくないそうだ。私は、妹とはこっそり仲良くするようにした。
 親戚同士でのお茶会(マウントの取り合い)があった。やっぱり妹は連れて行ってもらえなかった。母が私達を紹介する時、「上の子と下の子と、家に家政婦がいます。」と。イラッ 妹は家政婦じゃない。顔が引き攣る。親戚は中身のない会話で時間を溶かす。姉と私は、「可愛いね~」「美人さん」と褒められた。生ぬるい声が気持ち悪かった。イライラが爆発する寸前にお茶会はお開きとなった。夜、妹がお茶会の話を聞きたいと言った。全然聞いてなかったから、いかにも楽しげな話を捏造した。母が言っていた事は墓場まで持って行く。
 今度はお城でパーティーだ。王子様が結婚相手を見つけたいそうだ。やはり妹は連れて行ってもらえない。王子は、興味ないのか面倒臭いのか、全員に「可愛い」と言っていた。だが、急に足を止めてどこかを見つめた。視線の先には…妹が。王子は駆け寄っていった。3分ほど話して、妹は立ち去って行った。王子は追いかけようとするが、女に囲まれてしまう。私の頭は疑問で埋め尽された。「なぜ、妹がいるのか」「どうやって来たのか」「なぜ、王子が駆け寄ったのか」「何を話していたのか」「なぜ妹はすぐに立ち去ったのか」考えても仕方ない。妹に聞くことにした。だが、帰った時、妹があまりにも平然としていて、夢だったのかと思った。聞くにも聞けず、モヤモヤが残った。
 一週間後、朝起きたら妹が失踪した。私は家を飛び出して探した。何度も何度も名前を呼んだ。辺りが暗くなってきた。その晩、私の部屋に伝書鳩が入って来た。手紙を読むと、「お姉ちゃんへ 私はパーティーで出会った王子と結婚することになりました。私はお姉ちゃんが大好きだからお城に招待します。これから仲良く一緒に暮らそうね。 お母さん達は招待してないので気をつけてね。」という内容だった。私は嬉し涙がちょっと出た。夜の内に家を出て行こう。
 こうして私と妹は、お城で幸せに暮らした。王子から、ベタ褒めされてる妹を見ると微笑ましくなる。私もシェフから猛アタックを受けていて舞い上がっている。小さい頃たくさんの人から言われた「可愛いね」より、今大切な人から言われた「可愛いね」の方がずっと嬉しい。妹とお茶を飲みながら、そんなこと考えた。あ、花に蝶がとまった。今日はいいことありそう。

8/9/2024, 7:47:15 AM