『ブランコ』(創作)
飲みすぎた。
夜中の路地裏、駅までの道をフラフラと歩きながら今夜の飲み会の余韻に浸っていた。顔がニヤけてしまう。
大学時代の集まりだった。いつも見慣れた面子だけだと思っていたら、今日は珍しい人が来ていたから、張り切って飲み過ぎてしまった。
─相変わらず、美しく凛とした女性だったな─
大して話すことも出来なかったが、それでも、顔がニヤけてしまう。眼福とは、こういうことを言うのだろうと、考えながらフラフラと歩いていたら、目の前に小さな公園が現れた。ブランコが風に揺れている。
「あーだめだ。飲みすぎた。ちょっと休もう。」
誰に言うでもなく、ブランコに乗る。
─ブランコって、こんなに小さかったかな─
と、思うほど、ブランコは小さかった。窮屈さを感じながら、座ったまま揺らしてみる。
「うっ。やばい。」
込み上げる吐き気に、目眩がした。激しい目眩に意識が遠のく感覚の中、微かに誰かの声が聞こえた。
気が付くと、病院だった。
なぜか病室の隅から、憧れの彼女が、心配そうにこっちを見ている。
「大丈夫?わたしが、救急車を呼んだの。忘れ物を届けに追いかけたら、倒れていたものだから。」
僕は青ざめた。格好悪くて、穴があったら入りたかった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彼女は毎日病室に来てくれた。
そんな訳で、妻との馴れ初めは「ブランコ」なのだ。
2/2/2024, 4:20:23 AM