『だから、一人でいたい。』
「君ってよく独り言いってるよね」
何か心配なことある?何かあれば話聞くよと、昼食をとっている時に職場の先輩が話しかけてきた。
「えっと、そんなに独り言ありましたか。あんまり意識したこと無かったんですが」
「うーん……さっきコンビニでそのお弁当を選んでた時、オムライスと迷ってたよね」
現在食べているのは醤油がしっかりかかった海苔弁だ。おかずには磯辺揚げが2本乗っている。私はこれが堪らなく好きでよく買っている。
「ど、どうしてそれを知っているんですか」
「だから、独り言の話になるんだよ。偶には他の味が食べたいだの、これが好きだの言ってたよね。私も今日はお昼持ってこなかったから、コンビニに寄ってたの」
不味い、大変に不味い。あの時のやり取りを見られていた。あの時、変なことを言っていなかったか心配になったが、きっとそれ程変なことは言っていなかったと脳の片隅に置いておくこととした。きっと、この心優しき先輩は本当に心配してくれているのだろうが、大丈夫だと言えば無遠慮に更に踏み込んでくることは無いだろう。
「あー、あの時は内なる心がどちらにしようかと迷ってて、つい。時々、独りごちてるかもしれませんが、大丈夫なんで。もし、何かあれば先輩に話します」
「そう?そこまで言うなら引くけど、何かあれば言っね」
独り言の話はここで終わり、先輩と二人で談笑しながら昼食を終えることができた。先輩が他部署に用があった為、途中で別れた。
はぁ、と大きなため息をついた。
「お前がいけないんだからな。他人から見れば私は変人に見えるようだよ」
背後を振り返り、私に憑いている女性の霊を見つめた。彼女は悪びれた様子もなくどこ吹く風かの如く、ふよふよと漂っている。
私と彼女の味覚は通じているため、私が食べたものは彼女に伝わる。それが、彼女の娯楽になっているのか、しょっちゅう他の食べ物をせがまれる。
「もう、恥ずかしいなぁ。あんなやり取り見られるなんて」
あれも、これも背後霊が憑いているせいだし、私以外がこの霊が見えないことが原因だ。私はほてる顔を両手で押さえて廊下にしゃがみ込む。既に前後ともに誰もいないことを確認済みだ。
「あーもう。だから、一人でいたい」
蚊の鳴くようなか細い声でそう独りごちた。
7/31/2024, 11:09:27 AM