作品23 さよならは言わないで
大人になってからよく見るようになった夢がある。あなたに会う夢だ。
小さい頃、僕は事件というか、事故というか、変なのに巻き込まれた。あまりあのときのことを思い出さないようにしてたから、細かいことは覚えてない。
ただ、死ぬかけるほど危険なことだったことはたしかだ。実際、父はそれで死んだ。僕を庇ってくれたせいで。何度も何度も謝った。ごめんなさい、僕じゃなくてごめんなさい、死なせてごめんなさいって。
「父さん、本当にごめんなさい。死なせてしまって。僕が今もこうやってのうのうと生きていてしまって。死ぬのが僕じゃなくて、ごめんなさい。」
何度言ったかわからないほど繰り返し言ったその言葉を、あなたに向かって、また繰り返す。
父は静かに首を横に振った。
「生きていてくれて、本当に良かった。」
ただそれだけ言った。それ以上は、少し悲しそうな顔をするだけで喋らなかった。
けれどその言葉で、僕は許されたように感じた。今まで生きてしまった罪が、その言葉でなくなった。
「父さん、僕はずっと……」
言葉を紡ごうとしても、涙がそれを止める。ずっと謝罪無しで喋りたかった。死ぬ前にできなかった会話を、偽物の世界でいいから喋りたかった。別れが来る前に。
「死ぬ前に、別れの挨拶ができなかったのが、ずっと悔しかったんだ。」
絞り出した言葉が、文になる。もう少しで夢から覚めてしまう。その前に、早く言わなくちゃ。
「サヨナラを言ってしまったら父さんが亡くなったのを認めなくちゃいけなくなりそうで、言うのが怖くて言えなかった。」
父が、泣いている。その涙は、僕が泣いているのと同じ理由であるようにと、わずかに祈りをこめる。
そうだよな、やっぱ別れたくないよな。やっと会えて、許されて、こうやって話せたのに。
「だけど今日でその気持ちは最後にしなくちゃいけない。父さん、さようなら。どうかずっと、天国で見守っていてください。」
今日はあなたの命日で、あなたと僕が別れを告げた日。そして、言えなかったさよならをやっと言えた、大切な日。
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作品14 セーター よりその後の話し。
眠くてちゃんと書けない。
12/3/2024, 3:40:45 PM