一介の人間

Open App

繊細な花

とある三兄弟のお話。

三男より。

 ふと、気付いた時には、それは立派な薔薇が、我が家の庭先に生えていた。いや、勿論薔薇は繊細な花であるから、勝手に生えるなんてこと珍しいのだが、こればかりは思い当たる節がない。多趣味な次男なら...と一瞬考えもしたが、ここ最近の彼は忙しそうにしていて、仕事以外のことに割く時間は持ち合わせていない様子だった。
 では一体誰が...と考えたところで、その犯人は一人しかいないことに気づく、気づいてしまう。我が家の長男しか、こんなことできる人間はうちにいないのだ。いやまさか、と思ったが、薔薇の咲き誇るさまをこう、ずっと眺めていると、なんだかあの人らしさが見えてくる気がして余計に犯人らしくなってきた。
 あとで問いただそう。そう決意した己は、棘が生い茂り、側を歩きたくなくなる門の先に足を進めた。暫く正門を通って家に入るのは止めようと思う。

6/25/2024, 3:13:24 PM