藍田なつめ

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 目が覚めたら、横でユキが寝ていてぎょっとした。眉間に皺がよっていて、いや、そらこんな寒い中布団もかけずに寝たら魘されるよと思う。自分はいつもこたつで寝たら風邪ひくとかいうくせに、この吸血鬼は。というか、吸血鬼って風邪もあんまりひかないんだろうか。記憶の中で、ユキが体調を崩したところは見たことがない。
「さむ」
 布団から這い出て、掛け布団はユキにかけてやる。敷布団は畳んで枕と一緒に押し入れへ。自分の部屋からリビングに移動して、まずいつも通りにカーテンを開ける。
 真っ白だった。
「おお……」
 ついに積もったんだ。カーテンを閉じたときは降ってなかったから、夜中に降って積もったんだろう。空に雲の気配はほとんどないから、これは今日も寒くなるだろうな。
 さて、と部屋を見渡す。朝やることはルーティン化している。洗濯物まわして、朝ごはんを作り、食べて、洗濯物を干す。空いた時間に床を軽く掃除して、くらいまでが朝。終わったら本を読む。買い物に行く。ご飯を作る。食べる。日によって図書館に行ったり、散歩したり。ユキのゲームを一緒にやったりもする。
「あ、ない」
 読む本がない。だから今日は図書館に行こう。
 時間は無限にあるのに、本はそれでも読みきれないほどある。おかげでおれは一生退屈しないんだろう。

 図書館に行くたびに、アオイに会う。会うと話さなければいけないが、おれが提供できる話題はそんなに多くないので、ほとんどアオイが話すままに任せていた。アオイの両親はアオイを理解しない。クラスメイトや教師もそうだ。だからアオイは生きづらくしている。そういう話を週に一度か二度、会うたびに聞いていた。
 話される分には構わない。アオイが嬉しそうにするからだ。けれど、今日は違った。
「……シンヤくん」
 いつもの赤いコートを着たアオイは、おれが図書館に着くとすでにいた。多分、開館からいたんだと思う。小さく震えていた。
「どうしたの、それ」
 いつもより青白い顔の中で、頬が赤く腫れていた。叩かれたの、と震えた声でアオイが言う。
「学校、行ってないのバレて。バカにしてるのかーって」
 学校まで車で連れてかれたけど、こんな顔で行けるわけない。そうこぼすアオイの顔を見ながら、じゃあなんで図書館はいいんだろうと思う。ここにも人はたくさんいるのに。森みたいだからだろうか。視線を動かすと、本棚のところにいた人がちらりとこちらを見て、すぐ本に目を戻した。
「ねえ、一緒に来て」
「うん? うん」
 おれが本を返却するのを待ってアオイがそう言ったとき、おれは特に何も考えずに頷いていた。いつものことだからだ。ここ最近追加された、いつも。図書館からアオイを駅まで送ること。
 けれどアオイはおれの手を取った。触れられるのは初めてのことだ。その顔を見ると、少し強張った、怖い顔をしていた。
「一緒に来て」
 でもそれだけしか言われなかったので、おれはどうしようもなく、もう一度頷いた。

1/29/2026, 9:37:50 AM