悪役令嬢

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『透明』

見えない敵という存在ほど
恐ろしいものはございません。
これは少し前に体験したお話です。

南の密林地帯へ訪れた悪役令嬢とセバスチャン。
彼女達のお目当てはこの地でしか
採れないとされる幻の果実キング・バナナ。

現地のガイドに案内され、森の奥地へと足を運ぶ
二人はそこで恐ろしいものと遭遇しました。

「はあはあ、暑いですわ」
「大丈夫ですか、主」

蒸し暑く腐った有機物の臭いが混じる
ドロっとした空気の中を歩く三人。

生い茂る植物をナイフで切り分けながら先へ
進んでいくと、強烈な腐敗臭が漂ってきました。

臭いのする方向へ行くと、そこには皮を剥がされた
人間の死体が木に吊るされていました。

死体には蝿とカラスが群がり、
ブンブン、カァカァと不快な音を
撒き散らしながら死肉を漁っています。

あまりにも凄惨な光景に絶句する一同。

「悪魔の仕業だ」
ガイドが額から汗をダラダラと流しながら
ぽつりと零します。

「悪魔ですって?」
「ああ……古くから伝わる伝承がある。
『蒸し暑い季節になると、悪魔がこの地に現れ、
狩りを始める』と、きっとそいつの仕業に違いない」

ガイドの話に耳を傾けていると、セバスチャンが
突然、死体がぶら下がった木の横にそびえ立つ
大きなベンジャミンの木をじっと見つめました。

「セバスチャン、どうしましたか」
「木の上に、何かいます」
彼が視線を向ける先に目をやるが
何も見当たりません。

「何がいるのです?」
「わかりません」

彼は、狼の影が宿る瞳でその一点を睨み、
マスケット銃を構えると
見えない何かに向けて発砲しました。

するとどうでしょう。
ギィアアアアという人とも獣とも判断できない
おぞましい悲鳴が森に響き渡り、
驚いた鳥たちが一斉に飛び立ちます。

地面には緑色の液体が飛び散っています。
指ですくい取ってにおいを嗅ぐ悪役令嬢。

「これは、血ですわ」
「血が出るなら殺せるはずです」

この地に潜む悪魔の正体は一体何者なのでしょうか?
二人はキングバナナを手に入れ、
無事に生還を果たす事ができるのか?

5/21/2024, 4:15:12 PM