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朝、目覚めると、甘い柑橘類の匂いがどこからかしていた。  

本来、この部屋は、10年来のタバコヤニと俺の加齢臭100パーセントで満たされていたはず。

がっ‥
まだ、夢うつつに周りを見ると、
ふわふわのピンクのベットとシング‥。
まるで、お姫様様の部屋のよう。
白い清純な柔らそうな壁には、何かモダンな絵画が飾ってある。

昨日まで部屋一面を統治していた缶ビール、コンビニ弁当の残骸はどこにいったのだろう。
慌てて、起きると、すぐ前には、見慣れない大きな窓があり、まるで某ニュース番組の映像そのものを映し出しているようだ。

突然のことに後退りすると、
窓の光の具合からか誰か若い女の顔が一瞬、浮かんだ。
驚いて、後ろを振り返るが、誰もいない。
そういえば、目が覚めてから、何もかもが変わってしまい、もっとも身近なことに気づかずにいた。

僕は小さい頃から目が悪く、30センチ先のものでも歪んで識別できないはずなのに、今日は遠くにあるはずのものまで鮮明に見える。
薄桃色のカーペットに圧があり、
歩く時は、少し内股ぎみで、頼りなく地面に乗せている感覚がしていた。
また、胸の前が少し重く、なんと言っていいか‥動くたびにスライムのように暴れ、引っ張られる感じがする。
それから、目線を自分の体に向けると、その手足は小鹿のように細く、大理石のように病的に白い。

「まさか、そんな」
思わず、口に出た。
その声は、甲高い、女の声で
聴き覚えがある。
いや、まさに昨日も聴いていた。

「まさか、そんな」

だが、次の声を聴くより早く、僕は部屋の中の鏡を喰い入るように覗き込んでいた。

「ひゃっほー!!」
歓喜のマリオジャンプ

まさに僕の推しチャン。

僕は全宇宙の男子の夢を貪り始めた。
推しチャンの、、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
頭のてっぺんから足先まで、1つ1つ手で触感を楽しみながら、蛇が獲物をみるように舐め回しみる。
そして、全ての鼻の臭覚細胞を開いて、草原に生えた花の香りを嗅いでみた。

僕は一瞬六法全書の切れっぱなしが頭に浮かんだが、動物の本能を止めるには弱すぎた。

最後、お待ちかねのご確認タイム。
今は、自分の体だし、部屋には、虫一匹たりともいないのは確認済み。
推しチャンの秘密の開示場所もみつけたし、まさにこれからという時、最後の最後に運悪く天使の推しチャンと悪魔の推しチャンが現れた。

僕がメビウスの輪のなかを実験室のハムスターのようにぐるぐると回っていると、
どこからか、
「ギュルル、ギュルル‥」
と何かが排水溝に流し、詰め込まれる音が
した。
あたりを見渡したが、近くにそんなものはあるはずがない。

とうとう、お腹の痛みが襲ってきた。
「ああ‥」
切ない呻めきとともに、
推しチャンの可憐な後ろの花弁が開きかける。
自分なら、ためらいもなく、爆弾投下だか、
推しチャンの体にそれを許すことはできない。
僕は、推しチャンの顔を金剛力士像変えてでも止めなくてはならないという一種の信仰心に駆られていた。

僕の推し魂と推しチャンを守るために、全ての穴という穴を塞ごうとした。

流れ落ちる冷や汗と薄れてゆく意識のなかで、いつしか部屋の白い壁とピンクのシングは消え、ドブに浮かんだ南ドイツのハントケーゼの臭いだけが残った。

この激臭に再び目を覚ました時は、もういつもの見慣れた部屋だった。が、それとは別に追加でゲロシロップと食べかけのチーズで部屋中塗りたぐられていた。

起き抜けの1本に手を伸ばそうとすると、親切にも黒くて丸い密林地帯の手先が今日のイベントを知らせてくれる。

いつもなら、右手はセブンスを放り投げ、両足は玄関へ一目散のはずが、体が不思議と動かない。

仕方がなく、部屋の中をぼんやりと眺めながら、もう一度、夢の中の推しチャンのう○この匂いを嗅ぐ。

そうして、僕は本当に目覚めてしまったことを悟るのだった。

8/7/2023, 11:42:44 AM