猫宮さと

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《鳥のように》

彼は幼い頃に、親と呼べる人を喪った。
そして、半分血の繋がらないご兄姉からは疎まれていた。下級労働者の血が入っていると、侮蔑を込めて。
それでも彼は、ご兄姉を憎む事は決してなかった。

生まれてからずっと立派な軍人となるよう育てられ、真摯に努力をして。
邪神討伐の旅の最中で彼をずっと育ててくれた乳母…実のお母様が殺されても、悲しむ暇さえなく自分を見失わず進み続けて。
無事に討伐が叶った今は、帝国の復興に全力を注いでいる。
指導者になるのは気が進まないと彼は言っていたけれど、帝国の未来の為ならばと見えないところでも全身全霊をかけて職務に励んでいる。

そんな彼は。

「白鳥みたいだなぁ。」

執務室の机で書類に目を通している彼を見ながら、ふとそう思った。
裏でも表でも、何事にも真剣で。
でも、その苦労を表には出さずいつも穏やかで。
湖面にゆったりと浮かぶために、水中は足で水を掻く。
私は、ぼんやりとその思考に集中していた。

「どうかしましたか、白鳥みたいとは?」

気が付けば、書類から目を上げた彼が私を見て微笑んでいた。

その柔らかく細められた目と視線が合わさり、ようやく私は認識した。
また、考えてたことをぽろっと口に出してしまった事を。

「す、すみません、何でもないです!」

妙な独り言で彼の仕事を邪魔してしまった。
慌てて私が謝ると、彼は「謝らなくていいですよ。」とまた優しく微笑んで書類に目を戻した。

その一連の動作も笑顔も、私には丸い月夜に湖面に浮かぶ白鳥のように輝いてみえた。

8/22/2024, 5:31:54 AM