かのこ

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『やるせない気持ち』2023.08.24


「まず何から話せばいいのか……」
 動画配信サイトのRECボタンを押して、カメラに向かって話しかける。
 すると瞬く間にコメントが流れる。
 六十もすぎたいいオヤジの生配信に、これだけのリスナーが興味を持ってくれるなんて、物好きだなと思う。
 この配信は事務所を通していない、完全に個人的なものだ。
「オレの親友の」
 名前を出すと、コメントがにわかにざわつく。何十年経っていても彼のことを覚えている人はいるようで、すこし嬉しい。
 しかし、今はそんな事はどうでもいい。
「ある人から、今どうなっているか教えていただきました」
 この先のありのままを告げれば、きっと明日には大騒ぎになっていることだろう。しかし、彼の家族のことを考えると言わないほうがいいのかもしれない。
 それを思うと、言葉が続かない。喉が締め付けられ、心臓がバクバクと早鐘をうつ。
 黙ってしまったオレに、リスナーが心配の言葉をかけてくる。
 言うか、言うまいか。
 流れるコメントのなかに、ある名前を見つける。その名前は、彼の口癖だった。
『話してください。ありのまま』
 その人からのコメントは、呪詛のように思えた。きっと彼の家族だろう。
 オレは意を決して言葉を続ける。
「亡くなっているそうです。今から二十年前、あの事件の後に」
 そこから先は、とにかく自分でもめちゃくちゃだった。
 事務所や友人たちから電話が鳴りまくり、コメントも荒れに荒れた。
 それでも、オレは止まらなかった。このやるせない気持ちを、八つ当たりのようにぶつけ続けたのだった。
 明日はメディアが荒れる。
 だからどうした。オレの知ったことでは無い。

8/24/2023, 11:24:16 AM