「もうこんな時期」
随分と薄くなったカレンダーを前に立ち尽くす。12月とかかれた紙は最後の一枚で明後日になればまた新しいものに変えなければいけない。
少年老いやすく学成り難し とはよく言ったもので本当に時が過ぎ去るのは早い。まして師走ともなれば。
慌ただしく忙しない街並み。帰省ラッシュを伝えるニュース。年末年始の休業のお知らせをのせたチラシ。
時の流れを伝えるものは数多いはずなのに,何故かどれも遠い。まるで一人取り残されたみたいに。
「新年か。······何を祝うんだろうか」
一人きり家にこもって過ごす自分には,そのありがたみもなにも正直よく分からない。在りし日のように,当たり前に来るその日を待ちわびたりなどしない。
毎年の習慣として大掃除を済ませた広くもない部屋。汚れひとつない窓も,磨き上げたフローリングもやけに冷ややかだ。
眠らない街はどこまでも人を無関心にさせる。それが過ぎ,ぴくりとも動かなくなった感情の針。
大晦日も元日もなにも変わらない。過ぎれば過去,未だ見ぬ先は未来。ただそれだけのこと。
無言の空間に耐えかねてつけたままのテレビ。流れるのは特別面白くも興味もない番組。一年の振り返り そんなことを誰かに尋ねていた。
「······振り返れるようなことね」
今年一年何がありましたか?振り返ってみてください。 そんな風に聞かれてすぐに反芻できるようなことがあるのならそれはもう幸せなのではないだろうか。
なにもない。そんな答えにならない時点で。
何て 言ってみたところで,随分と淋しい年だったことは変わらない。本当になにもない退屈で凡庸な日々。ただ消化された時はもう帰らない。
「······平穏無事だったのか」
無病息災。仕事も滞りなく身内の不幸もない。何一つ 困難に陥ることなく今日とゆう日を過ごし,過去に思いを馳せる。余裕のある証拠だろう。
「感謝しないと」
大人になって失ったもの。あの頃の純粋な心。好奇心·冒険心·感謝の念。
いつのまにやら灰色の男たちの魔の手に陥っていたらしい。時間は貯蓄なんか出来ないのに。
「······本でも読もう」
久しぶりに昔好きだったあの本を手に取ろう。文庫ではなくてハードカバーで。108の鐘を聞きながら。
テーマ : «一年を振り返って»
12/30/2022, 2:53:09 PM