【理想郷】
「東京に行きたい」
家族に言うのは初めてだったけれど、ずっと考えていたことだった。
「東京なんて、やめておきなさい」
母にそう反対されるのはわかりきっていた。
「東京に行って、何がしたいんだ?」
父だけが落ち着いて話を聞こうとしてくれる。
まぁ、本当は落ち着いていないのかもしれないけれど。
「東京で、音楽の勉強がしたい。ここよりもっと広い場所で自分の才能を試してみたい」
「東京なんて、行かせられない。よく考えなさい」
そう言って、母は台所に向かった。
「…考えた結果だよ。ねぇ、」
わかってよ。
いつの間にか父もいなくなっていた。
未来への道は、閉ざされたまま。
fin.
11/1/2024, 7:15:23 AM