創作 「神様へ」
もう、見慣れた文言。境内に数多く納められた絵馬や、七夕の短冊、祈りの言葉に、祝詞。言語は違えど、神様にお願いしたい気持ちは万国共通なのだろう。
ただ人間たちに、ひとつ言いたい。
「自分、農業の神なんだけど。縁結びとか、病平癒とか勝負ごととか専門外なんだけど!?」
腹の底からの叫び声に、玉砂利の掃除をしていた神主がビクリと肩をはねあげ、社を振り返った。
しかし、人の目には何者も映らない。社の階段でうなだれていた叫び声の主は背後から肩をたたかれた。
「わっ、いつのまに」
「まあまずは、落ち着くにゃん」
「なにもできない訳じゃ、にゃいのでしょう」
賽銭箱の横に、二匹の猫のあやかしが並んで正座をし、お茶を喫していた。
「にゃん、新米のいなりきつねの様子を見に来たら、案の定にゃんね」
「うう、どーしたら良いのでしょう」
新米きつねは、猫のあやかしにすがりつく。
「10月になったら、八百万の神々の会合があるにゃんよ」
「そこで、縁結び成就の講習を受けるのにゃん」
「え、講習?」
新米きつねはきょとんとする。
「そうにゃ。にゃあたちも受けたことあるにゃんね」
「え、どんちゃん騒ぎするんじゃ……」
「にゃっ、勘違いするな。神様は願いを叶える存在にゃんよ。神はにんげんさんの信仰を受けないと、消えてしまうにゃ」
「えぇ……消えるのはいやです」
しょんぼりする新米きつねに猫のあやかしはニコニコと笑いかける。
「大丈夫にゃ。いなりさまは強力な神様にゃ。自信を持って、色々と学んでいくのにゃん」
猫のあやかしたちの助言で、大事なことが見えてきた。
「……自分、がんばります!」
「じゃあ、にゃあたちは帰るにゃん」
「また来るにゃあ」
猫のあやかしたちはとことこと帰ってゆく。入れ違うように一組の夫婦が参拝にやってきた。
「神様へ、来年もまた二人で桜をみられますように。どうぞよろしくお願いいたします」
今の自分にできることは、植物や人間にとって過ごしやすい気候を整えること、あとそれから……。
新米きつねは知恵を絞り、人間の願いを叶えられるように奮闘するのであった。
(終)
4/14/2024, 11:52:54 AM