「ねぇ私」
部屋の姿見に向かって話しかける。
『なあに私』
鏡の私は微笑む。
鏡の私は社交的で、勉強できる凄い人。
なのに私は社交性ゼロで、勉強もできない。
「今日ね、クラスの子がね」
『そうなんだ、それで?』
今日も私は学校でのことを話す。
でもクラスメイトの話に私は入っていない。
「私も皆と仲良くなれればなぁ」
『人のことをちゃんと見てる私ならできるよ』
「そうかなぁ」
鏡の私は私の話を聞いて応援してくれる。
何でもできる完璧な私。
「いいな、私が鏡の私ならうまくできるのに」
『そうかな。…そうかもしれないね』
『ねえ私?』
「なぁに私」
鏡の私はにっこり微笑み、
『私たち、入れ替わろうよ』
そんな不思議なことを鏡の私は言った。
「そんなことできっこないよ」
『できるよ。』
『だって鏡の私と会話できるじゃない』
確かに、と納得して私は考え込む。
「……そうだね、入れ替わろう」
だって親も、私が完璧なのを望んでるんだもん。
『うん、入れ替わろう』
すると突然、眠気が襲ってきて私の視界が暗転した。
数日後、夕方になり私が帰ってきた。
『ありがとう、私』
『私が人のことをちゃんと見てたから、』
『私はうまくやれてるよ』
私はにっこり微笑み、最後に言った。
『ありがとね、入れ替わってくれて』
私はそう言うと外で待つ友人に会いに行った。
何もない鏡で私を待つ、愚かな鏡の私。
11/3/2024, 10:25:30 AM