風鈴の音を聞くと、高校時代の親友のことを思い出す。
どうしてか、と問われても、はっきりとした理由は思い出せない。
それでも、風鈴のチリンという涼しげな音を聞くと、あいつのことを真っ先に思い出す。
つけっぱなしにしていたテレビでは、夏のお出かけ特集のようなものが流れていた。テーマパークの風鈴が沢山ぶら下がっているエリアで、汗を流しながら女性アナウンサーが「清涼感がありますね」などと笑顔で言っている。
『こうすればちょっとは涼しい感じがするだろう?』
そうだ、あれは猛暑の日だった。あの夏は暑かった。暑い暑いと騒いでいた時に、あいつが俺の部屋に風鈴をつけてそう笑った。
そんな、随分と前のことが簡単に思い出せる。
そういえば、あの時の風鈴がまだどこかにしまってあるかもしれない。思い立ったら行動せずにはいられなくて、押し入れの中のダンボールを漁ってみる。
「お、あった。」
それは、押し入れの奥の方のダンボールに、木箱の中に梱包材と共に入っていた。
出してみると、チリン、と小さな音を立てた。
下の方が青色のグラデーションになっていて、白い金魚が泳いでいる柄のガラスの風鈴。俺はそこそこ気に入っていたけれど、高校を卒業してからつける気にもならず、ずっと仕舞ったままだった。
よっ、と立ち上がり、窓を開けてカーテンレールに括り付ける。すると、チリン、チリン、と音を立てて風鈴がくるくると回った。
色んな事情があり、もう何年もあいつとは会えずにいる。風鈴の音はどこでも聞けても、もうあの笑い声は多分聞くことが出来ない。
「あっちーなー…。」
気温は年々上がっていて、今年の夏はあの夏よりも、随分と暑く感じる。
あいつも、部屋に風鈴をつけているだろうか。そんな、どうでもいいことを思った。
7/13/2025, 7:50:49 AM