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涙の理由

なんで泣いてるの、と隣の家のお姉さんは僕に心配そうに言った。
理由なんてないよ、と僕は答えた。本当に理由なんてなくて、強いて言うなら泣きたくなった、が理由だったから。
お姉さんはその言葉に困ったように眉を下げると、優しく諭すような声で告げる。
「あのね、君は理由なんてないって感じてるかもしれない。そういう涙もあると思う。でも、今の君の涙はそれじゃないでしょ」
そうかな、と考えた。僕は何か理由があって泣いているのかな。何も分からなかった。
困っている僕を見て、お姉さんは少しだけ辛そうに瞳を細める。痛そうに顔を顰めたお姉さんの姿は、なんだか見たくなかった。
「……なんで泣いてるの、なんて聞いたけどね。お姉さんは、君がなんで泣いてるのか知ってるよ。でも、その理由は君が見つけなきゃいけない」
お姉さんはそうただただ暖かい声で語りかける。それと同時に冷たさも感じた。……けど、多分それが僕の成長の為なのだということも、分かった。
お姉さんは瞳の縁を微かに光らせると、いつも僕に話しかけてくれるよりもうんと甘く優しく笑う。
「お姉さんは、君のことをいつまでも見守っているからね」
……何も分からなかった。なんで泣いてるの、と聞かれてもまだ答えられそうになかった。
だけど、何故だか涙が止まらくて、それで。もう少し大人になったら理由を見付けられそうだ、なんて1人きりのその場所で思った。

9/28/2025, 9:18:56 AM