夜兎

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秋風に煽られ木の葉が宙に舞う。
秋風を受けながら通い慣れた遊歩道を歩く。
足元はイチョウの葉が敷き詰められ、金色の絨毯のように輝いていた。通りすがりの多くの人の目を楽しませていた。

「お待たせ」

ベンチに腰掛け、読書に勤しむ彼に声を掛ける。彼は顔を上げ無言で本を閉じた。
そのまま立ち上がる。
慌てて後を追うと、彼の歩幅は緩やかで、私に歩調を合わせてくれているのが分かる。

そんな細やかな彼の気遣いが、擽ったい。
言葉にはしてくれないけれど、大事にされているのがよく分かる。

「………来たいって言ってた店はここだろう」

「え!?覚えていてくれたの?」

彼が足を止めたのはパンケーキが売りのカフェ。行列必至の有名店で、1時間待ちは当たり前の大人気店。
デート中に何気なく話した事を覚えていてくれたことに感激する。

「甘いもの嫌いじゃなかった?」

「嫌いだよ。だから付き添いだけな」

「……ありがとう」

「別に礼を言われる事じゃない」

素っ気ない返事。だけど、その不器用さが愛おしくて笑みがこぼれた。

#秋風

10/22/2025, 12:33:27 PM