夜叉@桜石

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ルビーのような輝く深紅で、街が包まれる。
一瞬にして、ある国はオニキスの黒に染まった。
私は、学園に通っていた。長い一日が終わり、いつものように孤独な帰路をたどっている時、あとからつけられていることに気がつく。足をはやめても、つきまとう視線と足音は途切れることがなく、私は仕方なく振り向く。と、そこには息を切らした彼が立っていた。逃げたことに対しての避難もそこそこに、彼は焦った様子で今日の夕刊を見せてきた。
『隕石衝突!』
そんな見出しの下、長々と述べられていたのは、今日の夜、この街に隕石が降ることだった。天文学者達は、この事態は予測不可能で突然観測されたものだという。可哀想に、今頃、街の者から非難を受けているのだろう。
彼は、新聞をしまったあと、逃げるか、と聞いてきた。その瞳は不安に揺れ、唇はぎゅっと引き結ばれていた。
私は、そこまで生きることに興味がなかった。なんなら、隕石に潰されるならどこにいるのが最適か、などと不穏な考えをめぐらしている始末だ。
彼につこうか、このまま成り行きに任せるか、一瞬考えているうちに、仲間から連絡がはいる。
かなり長い文章だったが、要約すると、こうだ。
「アレが中央広場に現れた。」
彼の表情が固まり、フクロウが届けた季節外れの封筒を握りしめる。私は一瞬、隕石が落ちる前にアレを片づける事はできるだろうかと胸を躍らせた自分に、いらだった。いつもの無表情の瞳の奥底に、暗い光が灯った。
きっと、私達はアレを倒すことができるだろう。
もちろん、自分たちの命も道連れになるだろうが。
今日くらいは、いいだろう?

流れ星に、願いを。
今夜降る隕石に、願いを。

どうか彼らだけでも、逃がしてやってはくれないか。

4/25/2024, 1:02:28 PM