かたいなか

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「◯回ガチャを回せばピックアップ確定」の、その◯回にギリギリ、ガチャ石が届いて……ない!
ソシャゲの悲しい思い出に関しては枚挙に暇がない物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所には、フィクションファンタジーなおはなしらしく、
東京に活動・支援拠点を建てて、闇に隠れながら活動しておる異世界組織がありまして、
名前を、「世界多様性機構」といいました。

今回のお題回収役は、この機構で仕事している異世界出身の女性でして、ビジネスネームをヒノキの別名、「アテビ」といいました。

アテビの仕事は、東京に無断で作った支援拠点「領事館」で、この世界(特に日本)に避難してきたの異世界人の、生活支援と援助をすること。
世界多様性機構は滅んだ他の世界の生存者を、まだ生きている他の世界へ、
密航の形で、避難させて、そこに馴染み新しい生活を送るための手助けをしておるのです、
が。

実は、滅んだ世界の生存者を無許可に他の世界へ定住させるのは完全に違法でして。
というのも、自然の成り行きしかり、自分たちの選択しかり、たいてい自業自得が多いですが、
それによって滅んだ世界の人々を大量に別世界へ申請無しに移住させ続けると、
いずれ移住先の世界が、滅んだ世界の住民で、パンパンに飽和してしまうのです。

なによりイチバン懸念されるのは、移住先の伝統や文化が塗りつぶされて、消えてしまうこと。

このまま機構が滅亡世界の生存者を、どんどん東京に密航させ続けると、
彼等の世界に存在した先進技術によって、あらゆる伝統、あらゆる文化、それこそ江戸切子や美しき田園風景等々が、そのほとんど大多数が、
滅んだはずの世界の技術に、あるいは文化によって、上書きされてしまう可能性が、あるのでした。

それでも異世界人の命を救いたいのが機構です。
故郷を失った人々に、新しい居住地を。
故郷が死んでしまった人々に、新しい命を。
それが、世界多様性機構なのです。
アテビもそんな、滅亡世界から別の世界に密航して、それで生き残った異世界人の子孫。
密航2世であったのでした。

「でも、それは本当に、必要なことなのかな」

ここでようやくお題回収。
東京を滅亡世界の難民・密航シェルターにしようと画策している機構で仕事をしておるアテビは、
いずれ先進世界の難民と技術とで塗りつぶされてしまうかもしれない東京に赴任してきて、
しかし東京の、日本の伝統と、文化と、心を、
すごく気に入って、尊敬して、
なにより、少しだけ、愛してしまったのでした。

機構は滅亡世界難民の密航支援だけでなく、
東京をはじめとしたこの世界のような「発展途上世界」への、先進技術導入も、
積極的に、狙って、為しておったのでした。

「私、自分が好きだと思った世界の、好きだと思った文化を、先進世界で塗りつぶそうとしてる気がする。それって、どうなのかな……」

アテビは自分の上司に相談しました。
アテビは、少しの間、自分の職場である世界多様性機構からお休みを貰って、
そして、自分が本当にやりたいこと、為したい仕事が何であったのか、考えることにしました。

それこそが、今回のお題回収でありました。

「館長。スギ館長」
「ん?どうした。給料アップの交渉か?
ウチは資金がキッツキツなんだから、無理だぞ」
「違うんです。私、わたし、
このまま機構で仕事し続けるべきか、悩んでます」

「理由は?」
「機構の仕事のせいで、この世界の良いものが全部消えちゃうのは、違う気がしたんです」
「それで、機構を辞めるかこのまま仕事を続けるか、少し考えたいと? 新人のお前が?」
「はい、はい。そうなんです」

「アテビ。お前、悩み事のちゃんとした答えを見つけられるくらいに、機構の仕事を理解してるか。
そのくらいの場所に、経験が届いてると思うか」
「届いて……いると思います」
「本当に、ほんとうに、そう思うか」
「思います。届いて……いると、思います」

「いいや。お前は、まだ中途半端だ」

右が良いか、左が良いか。
助けるべきか、守るべきか。
今の仕事が悪なのか善なのか、正義なのか。
それをちゃんと考えるためにも、まず、「今の」自分の立ち位置を、よく理解しろ。
アテビの上司はアテビの目を見て、言いました。

「アテビ。お前はまだ、届いて……ない」
アテビの上司が言いました。
「まず、自分の『今』を、確実に理解しろ。
自分の立ち位置を確定させろ。
反対側と自分側を比べるにはな、それが、必要だ」

7/10/2025, 7:25:20 AM