私だけ
アイドルみたいにキラキラと輝いているキミ。
周りの子達を虜にする。いつもキャーキャー賑やかだ。
顔は良いし、身長は高い、たぶん190はあったと思う。
頭脳も明晰、運動神経抜群、完璧な人間だ。
何をしてもみんなの人気者。女子からも男子からも。
「今日も賑やかだなー」
私は教室から出て、屋上へとつながる階段へと向かう。
そこはあまり人が来ない。なぜだかわからないけど。
ここは静かでゆっくりできる。階段に座り、好きな本を読む。
私だけの時間だ、誰にも邪魔されない。
すると、お客さんが来た。いつも来るお客さん。
「おつかれさま、今日も人気者だね」
私がクスッと笑うとアイドルだったキミの表情は一転。
さっきまでのキラキラオーラからドス黒いオーラに代わり、深いため息をついた。
髪の毛を乱雑にかき、私の隣にどかっと乱暴に座る。
「あぁー、まじダル」
「やめたらいいのに、アイドル風」
本を閉じて、キミのふわふわの髪を撫でた。
「別に好きでしているわけじゃない」
「だーかーらー、やめたら?」
「やめられるならやめたい――」
キミはちらりと私の顔を見て、またため息をついた。
そして、私の肩に頭を置いてグリグリと擦り付けてくる。
「おーもーいー、いーたーいー」
私の声をガン無視。グリグリと続ける。
「なぁ……やきもちとかやかねーの?」
ぽつりと呟くキミ。私は目を丸くしてから、吹き出した。
「やかないかなぁ、本の方が好きだし」
私の言葉と同時に本を奪う、キミ。
「あっ、返してよ」
「やだ、全然俺のこと構ってくれないじゃん。もう少し気にしろよ、俺これでもお前の彼氏じゃん」
涙目になって、私に訴えてくるキミ。
みんなの前で見せないこの顔。これは「私だけの特権」。
私だけが知っている。私の前だけ、弱くなる。
構ってほしくて、ずっとアイドル風を続けているのを知っている。
嫉妬させたいのも知っている。他の子と話しながら、チラチラとこちらを見ているのも知っている。
「そうだね、彼氏だね、秘密の彼氏」
「なぁー、もういいじゃん、公認しーたーいー」
「いーやーだー、私、みんなから責められるじゃん」
私は本をヒョイっと取り返した。
「そんなの関係ねぇーし……」
真剣な目をこちらに向けてくる。顔が良いから見つめられると恥ずかしい。
私の顔が段々、熱くなってきた。――やばいやばい。
本を自分の顔の前に持ってきて、それでガード。
「あっ、今照れている?ちょっ、顔見せろって」
「てーれーてーまーせーん」
攻防戦が続く。この時間は、私だけの特別な時間。
誰にも邪魔させない。私だけが知っていて良い、キミの色々な表情。
7/18/2023, 11:51:30 AM