わたあめ

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 駅前から少し離れた細い路地にその喫茶店はある。5段ほどの階段を降りると、『おひとり様に限ります』という貼り紙が入り口にある。扉を開けると芳しいコーヒーの香りとほのかな木の香りが出迎えてくれる。ブックカフェと言うのだろうか。入り口横と奥に大きな本棚があり、席と席の間の仕切りも背の低い本棚になっている。
 席はゆったりとしたソファやかちっとした椅子、ハンモックなど自分の好みで選べる。他の人が視界に入らないような座席の向きになっている。
 大小の観葉植物が配置されており、森の中で過ごしているような錯覚に陥る。

 入り口で飲み物を注文し、窓際のお気に入りのソファを見つけ腰を下ろす。店主が淹れるコーヒーの音や他の客がカップをソーサーに戻す音などが聞こえる位の静かな空間だ。皆思い思いに一人の時間を過ごしている。
 私はかばんから読みかけの本を取り出す。残り数十ページ、あと少しが電車で読み切れなかった。家に帰るまでの時間がもどかしくてこの喫茶店に来てしまった。本の世界に入り込み読了。ソファのサイドテーブルに注文したコーヒーが置かれている。店主がそっとおいてくれてのだろう。少し冷めたコーヒーを飲む。

 本のカバーを外し、カバーの内側を見る。前に読んだ人の感想やお薦めの本などが書いてある。
 本棚の本は店主が集めたものと、店の客が置いていった本が納められている。『持出禁止』と書かれていない本以外は自由に持って良いことになっている。
 誰がはじめたか知らないが本のカバーの内側に感想を書きあう事が通例になっていた。

 私も隙間を見つけて感想を書く。
『本編では語られなかった登場人物の生い立ちや生き様が描かれていて、一気に読んでしまいました。常に冷静な先生の若かりし頃の情熱的な有り様が新鮮であり、人間味を感じ、もっと好きになりました』

 他の人の感想も読んでみる。前に読んだ本にもあった文字だ。見ず知らずの読友。先ほど書いた感想の後ろに一言付け足した。
 『また会いましょう』
 
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お題:また会いましょう

11/14/2024, 2:16:20 AM