夢で見た話

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『くそぉーっ、悔しい〜〜〜!!!』

仰向けにひっくり返ったまま感情を思いきり吐き出すと、その声を待っていたように手拭いが差し出された。
初めての時は驚いた。好敵手へ勝負を挑みに幾度となく訪れてはいるが、この場所では見ない顔だったから。

『毎回ありがたいけど、まさか揶揄っていませんよね?!』

いつも負けている私を。語調が自然と強まってしまう。
私の言葉にその女(ひと)は、ハハハと声を出して笑った。

『貴方いつも、大声で口上を述べるじゃないですか。』

だから負けた方に要るだろうと思って持ってくるだけですよと、尤もらしい事を言いながら、今はもう見慣れた女が隣に腰を下ろした。
その情けをあの日以来、ずっと私が受け取っているわけか。
改めて不甲斐なさがこみ上げる。一回の勝負で二度負けた気分だ。…悔しい、悔しい!!!

私が顔を拭いたり頭にできたタンコブの場所を確認したりする間、この女は何も言わずに待っている。
その沈黙がありがたい。励ましだの慰めだのを口にされたらきっと余計に頭にきてしまって、二度と手拭いを受け取る気が無くなってしまう。

『……ありがとうございました。』

仏頂面で少し汚れた手拭いを返す。(洗って返すと言ってもどうせこの女は断る)はい、と言って苦笑される。毎回。

友人でもなく、敵でも味方でもなく、知り合いと言うには近いが、決まり切った言葉を交わすだけ。
やり取りを終えて別れる時、私とこの女が何なのかが解らなくて、妙なものだな、といつも思う。
べつに、名前の無い関係が不満なのではない。
でもいつか私が勝利を果たす時、貴女が好敵手(あいつ)に手拭いを渡して労るのかと思うと、嬉しくない気がしなくもない。


【あなたとわたし】

11/7/2023, 2:31:51 PM