YUYA

Open App

「老猫、恋を語る」


おやおや、また誰かが泣いておる
縁側のこの席は、恋に破れた者の定位置になって久しい

わし?
わしはな、恋などとうに卒業した……と言いたいが
まあ、毛布のあたたかさには まだ未練があるわい

恋とはなんぞ、とよく聞かれる
人間たちは知りたがる
けれど、知ったら最後、うまく動けんものさ

若い頃は、
あの子の尻尾にじゃれたり
深夜の屋根で「にゃあにゃあ」喧嘩したりしたものじゃ

それでもな、
一緒にひなたぼっこして 
黙って目を閉じる時間がいちばん幸せだった

恋は 騒がしゅうて
愛は 静かじゃ

忘れるな、若造
「触れたい」と「そばにいたい」は、似て非なるものじゃぞ

触れるのは衝動
そばにいるのは覚悟じゃ

そういうものを
毛づくろいのように
毎日少しずつ重ねていくのが、
――本当の“好き”というやつじゃろうて

さて、わしはそろそろ昼寝に戻るとするわ
おまえも、恋に敗れてうずくまるなら
まず日なたを見つけることじゃ

心は案外、温かさでほどけるものよ

6/7/2025, 3:22:02 AM