今回のお題は「風に身をまかせ」とのこと。
ちょうど去年の9月頃、「台風が過ぎ去って」というお題で投稿したおはなしの中に、
まさしく風に身をまかせて空の彼方にぶっ飛んでったハムスターがおりましたので、
今回もその、風に身をまかせたハムスターのおはなしを、ひとつご紹介します。
「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなし。
世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、たとえば世界と別世界を繋ぐ航路を敷設したり、その航路の整備・維持管理をしたり、
または滅んだ世界からこぼれ落ちた難民たちを、
他の世界に迷い込まないように、局内の難民シェルターへ収容してやったり、
ともかく世界に関する様々な仕事を、手広く深く、公的に為しておるのでした。
で、
前述の台風に身をまかせて去年の9月にぶっ飛んだ不思議なハムスターというのが
この世界線管理局の法務部執行課の局員
ビジネスネームをカナリアといいまして。
「僕にしかできない仕事?」
その日のとっとこカナリアは、同部署異部門の副部門長、ツバメに呼び出されまして、
とっとことっとこ、彼のブースを訪ねました。
なんでもカナリアにしかできない仕事があるとか。
「最近の世界多様性機構の動向は、カナリア、あなたも知っているでしょう」
誰かさんのせいで2徹状態の男、ツバメがコーヒーをキメながら言いました。
「難民シェルターから難民たちを解放するという名目で、彼等は管理局に入り込んで、
そして、過激な活動を繰り返しています」
ツバメの背後でゆらりゆらり、オスのホンドギツネのぬいぐるみが目を文字どおり光らせていますが、
まぁまぁ、気にしてはなりません。
特にお題とは、関係ないのです。
「いや気にするなと言ってもね、ツバメ、そのぬいぐるみ、どうしたの」
「なんでもありません」
「だって、ゼッタイ、動いてるよ。どうしたの」
「だから、なんでも、ありません」
「ツバメ」
「ムクドリの借金返済半額肩代わりとぬいぐるみ不問どちらが良いですか」
「ごめんそれで世界多様性機構が何だって?」
世界多様性機構は、カナリアたち管理局をバチクソに敵視している活動家系組織でした。
管理局が難民たちを、難民シェルターに収容しているのが、監禁に見えて気に入らない様子。
それで機構は数年・数十年前から、管理局にいわゆるテロ活動を、ずっとずっと続けていました。
機構がどれだけ管理局を敵視しても、機構がどれほど管理局を潰しにかかっても、
管理局が、機構を潰しに行くことはありません。
管理局はどの世界にも公平で、公正で、中立的でなければならず、
ゆえに、特定のいち組織を、管理局の名のもとに潰しに行ってはならぬのです。
「とはいえ、機構の蛮行をただただ放っておいて、自由にさせるワケにもいきません。
それは、カナリア、あなたも知っての通りです」
そこで。
ツバメが言いました。
さっそく、ようやく、お題回収が始まるのでした。
「そこでカナリア、あなたにしかできない仕事というのが、上空からの情報収集です」
「 なんて? 」
「経理部のエンジニア、スフィンクス査問官との合同作業です。難民シェルターの、ゲート近くのデータを収集してください」
「あの、僕、ハムスターであって鳥じゃないけど」
「スフィンクス査問官が、あなたに丁度良いカメラの開発に成功しました。
風の魔力の感度を高めているので、滞空・滑空時間ともに長時間が見込めます」
「だから僕ハムスターだってば」
「収蔵課のアンゴラさんが
『それはそれは器用で、上手で、優雅で、
風に身をまかせるのが非常に上手』と
あなたのこと絶賛してましたよ?」
「 ……なんて?? 」
ほら。コレがその証拠動画だそうですよ。
ツバメがクリスタルタブレットで、証拠動画を呼び出しますと、
画面にはびゅうびゅう、本物の魔女のアンゴラの、喫茶店のドアからすごい勢いで、空へぶっ飛んでゆく様子が映し出されておりました。
「こんなカンジで、今回も風に身をまかせて、上空から情報を収集してくれれば」
「だから!僕はハムスターであって!
風船でも鳥でもないってば!!」
ギーギー!ギーギー!ちゅーちゅーちゅー!
風に吹かれるだけの作業が不服らしく、とっとこカナリアは大激怒。
「拒否!その作業、僕、拒否!」
「拒否といっても、既にスフィンクス査問官には」
「却下ったら却下!!」
当分、だいたい数時間、威嚇と攻撃のハム声が、ずっと聞こえておったとさ。
5/15/2026, 8:56:19 AM