→短編・プレゼント
ある日、見上げるほど巨大な卵のような楕円形の物体が太平洋に現れた。海にプカプカと浮いている。
世界各国がその謎の物体を調べたところ、物体には全世界中の人々の未来の記憶が収められていることが判明した。
友好的な宇宙人からのプレゼントだという。この宇宙人はかなり高度な文明を持つ種族で、時空間を自由に操作する技術を有しているということだ。
手軽に自分の未来を知ることができるとあって、人々はこぞって物体に押しかけた。物体旅行は世界中の流行りとなった。
A氏も知人友人に物体行きを誘われたが、氏は遠慮を苦笑いに変えて断った。
「ボクは止めとくよ」
当初、この先見の明のない発言でA氏は失笑を買ったが、ほどなく同じように未来への関心を持たない人々がチラホラと現れ始めた。
未来が記憶通りにならなかったのだ。予見が未来を多世界に広げたのだろうと、博識者たちは見解をまとめた。
A氏の友人は、こうなることを知っていたのかと氏に尋ねた。
彼は軽く肩をすくめた。
「ボクは過去の記憶で手いっぱいだからね。未来の記憶まで自分で処理できないって思っただけさ」
その回答に、大金持ちになる記憶を持ってしまった友人は、一向に膨らまない財布を握りしめて、深い嘆息をついた。
今でも宇宙人からの贈り物は海を漂っているが、そこを訪れる人はほとんどいない。
テーマ; 未来の記憶
2/12/2025, 5:53:29 PM