かたいなか

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「日常的に多いシチュよな。『好きじゃないのに』」
ぱり、ぱり、ぱり。好物たる堅揚げポテチを賞味しながら、某所在住物書きは己の行動を振り返る。
「なんか惰性でログインだけしてるソシャゲ。明日の話題に必須だからチェックするSNSトレンド」
なんならクソ苦手で全然好きじゃないのに継続してる人付き合い、なんてのも有らぁな。
物書きは付け足し、またポテチを口に放る。
「うん。……別に……好きじゃあ、なかったんよ」
思うところがあるのだろう。ピタリ動作を止めると、
「でも環境が環境で、人権で、完凸必須だから……」
過去のガチャ爆死を告白し、弁明し、崩れ落ちた。

――――――

3週間前から定期的に、週に1〜2度の頻度で、何故か私のアパートに二足歩行の子狐が餅を売りに来る。
理由は子狐から聞いた。私が始めて餅を買ってくれた人間であり、唯一の得意先だから、だという。
シュール過ぎるものの仕方がない。警察でも保健所でも、通報したところで信じてもらえる気がしないし、画像・動画加工技術が発達した昨今では、撮ったところでフェイク認定されて終わる。
仕方が、ない。
納得いかないものに対する諦めと思考放棄は世の常で、なにより子狐の餅は、不思議なことに、食べると何故か心身の毒気が抜けていく心地がする。
それでかれこれ複数回、呪術や魔法が「非現実的」とされ久しい現代に、この不思議な関係を続けている。
今夜も、その非現実が来て、インターホンを鳴らし、「おとくいさん、こんばんは」と頭を下げる。

「キラキラ、いっぱい、いっぱい!」
今日購入した餅は、子狐が私の小言を聞いて一生懸命作ったという、低糖質の、いわゆる惣菜餅。1個200円で5個のお買い上げ。つまり1000円。
子狐はペラペラの紙幣より、キラキラした貨幣を好むようなので、100円5枚と500円1枚を渡した。
案の定、子狐はぴょんぴょん跳んで喜んだ。
「おとくいさん、トーシツノスクナイモチ、好き?」

「特段好き、というワケでもない」
「好きじゃないのに、普通の甘いおもちより、いっぱい買ってくれるよ。なんで?」
「運動量の少ないデスクワークだ。だから、1日の糖質量など150程度で十分足りる。それにこの量と栄養バランスで200円はコスパが良い」
「ですくわーく?こすぱ?好きなの?」
子狐は知らない言葉を聞くと、その場で小さなノートとクレヨンを取り出し、床に広げてぐりぐりメモを……取っているのか絵を描いているだけなのか、よく分からない。何せ書いてあるものが読めない。
まるでそれこそ、小さな子どものお絵描きだ。

「……子狐。人間にはな」
ぽん、ぽん。二足歩行の子狐の、おそらく肩と思われる場所に、手を置く。
「好きだけど食べ過ぎると体に悪い物と、好きじゃないけどお金のためにやっている仕事があるんだ」
目を見て言い諭すと、子狐は頭をかくんと傾けて、
「なんで?」
返答に困る一言を、ストレートに投下してきた。

3/26/2023, 1:46:47 AM