白井墓守

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『秘密の手紙』

君から貰った秘密の手紙。
僕はそれを開けずに引き出しの中に仕舞い込んだ。
……今もまだ、開ける勇気はない。

言葉というのは不明瞭で、いつだって手に掴めないそれは、僕の心に直接影響を与えてくる。

陰口を叩かれれば苦しくなるし、褒め言葉を貰うと嬉しいと思う。
一喜一憂する心の動きは、僕のものなのに僕自身ではコントロールが効かない。

だからこそ。
最期に、君から手紙を貰ったとき。
僕は開ける事が出来なかった。

君が死んで十年の月日が経つ。
子供だった僕は大人になり、立派に社会人として働くようになった。
……子供のまま時を止めた君を置いて。

こんな事があった。
とある番組でとある人がこう言った。
『夢に出てくる人は、その人があなたに会いたがってる人なんです』
その日、僕は君を夢に見た。
些細な事で、偶然といえば、偶然だ。

だけど、その偶然の奇跡が僕の背中を押して、

「君に、会いに、きたんだ」

震える手で引き出しの中の手紙を取る。
もたもたとした自分の動作に焦る心を押さえつけながら……僕は便箋を開いた。

残されたのは大粒の涙を流しながら、声も無く泣き叫び蹲る僕の姿だけがあった。


おわり

12/5/2025, 8:41:27 AM