ただの野球人

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            届いて.....

お届けします、と書かれた差出人不明の小包が届いた。

インターホンも鳴らさず、玄関の前にひっそりと置かれていたその小包は、手のひらほどの小さな箱だった。開けてみると、中には古びた写真が1枚と、手書きのメッセージが入っていた。

写真は、見覚えのない古い日本の家屋が写っていた。庭には桜の木があり、満開の桜の下には見慣れない女の人が立っている。

そして、メッセージにはこう書かれていた。「見つけてくれて、ありがとう。あなたが届けてくれたから、やっとここへ来られた」

背筋が凍りついた。届けてくれた?何も届けた覚えはない。そして、この「ここ」とは一体どこなのか。

その日から、奇妙なことが起こり始めた。夜中に、誰もいないはずの部屋から、すすり泣くような声が聞こえる。玄関の鍵を閉めたはずなのに、朝起きると開いている。

そして、夢を見るようになった。夢の中では、あの写真の家屋の縁側に座っている自分がいた。満開の桜が咲き乱れ、隣には写真の女の人が座っている。女の人は何も語らないが、こちらをじっと見つめている。その視線は、どこか悲しげで、同時に深い執着のようなものを感じさせた。

ある日の夜、いつものように玄関の鍵を閉めて寝たはずだった。しかし、ふと夜中に目が覚めると、玄関のドアが半開きになっている。恐る恐る近づくと、ドアの向こうから、あの女の人の声が聞こえた。

「やっと、届いたね…」

ゾッとして、後ずさりした。しかし、もう遅かった。玄関の奥から、写真の女の人がゆっくりと姿を現したのだ。その顔は、写真と同じく無表情だが、その目は私を離さない。

そして、女の人は震える手で私に何かを差し出した。それは、あの古い写真だった。

女の人は、その写真を私に「届けろ」と言っているようだった。どこへ、誰に、何を届けろというのか。恐怖で声も出ない私に、女の人は一歩、また一歩と近づいてくる。

その瞬間、私は確信した。あの小包は、私への「届け物」ではなかった。私自身が、何かを届けるための「運び屋」にされてしまったのだと。

そして、あの女の人は、私に何かを届けてもらうことで、ずっと「待っていた」のだ。

今も、あの女の人は私の部屋の片隅に立っている。そして、毎日、あの写真を私に差し出してくる。私は、いつかこの「届け物」の正体を知り、彼女を解放することができるのだろうか。それとも、永遠に彼女の「運び屋」として、この恐怖から逃れられないのだろうか。

7/9/2025, 10:18:26 PM