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君は、愛と美の神に愛されている。本当にプシュケーの生まれ変わりみたいだ。

春になると、あの溢れんばかりの緑から、君たちは喜びの象徴のように生まれてくるだろう。この世の祝福をいっぱいに受けて、君たちの羽ばたきは幸せの風を呼んでいるんだ。

だから、僕はときどき酷く惨めな気持ちになる。そんな美しい君たちを、僕は銀色の糸で絡めとることしかできないのだから。君たちの翅を引き裂いて、咀嚼するとき、何ともいえない悲しい気持ちで僕の胴体は幾度も潰れそうになる。

そんな時に、君と出逢ったんだ。

僕は最初、目を疑った。だって君は、夜空を飛んでいたんだもの。細やかなつくりをした真っ白な翅が星屑のようにきらめいて、闇夜にすぅっと透けていった。頼りなげにはためく小さな姿は、紛うことなく君だった。君の、その小さな命の瞬きをみているような気がしたよ。

それからというのも、眩い太陽の下にいても、艶やかな青い蝶々が飛んでいても、僕はあの夜の君を思い出してしまう。

春の夜風を浴びるたびに身体がざわついて、君の姿をみるたびに、僕の知らない本能がしくしくと疼くのがわかる。

可笑しいだろう、僕はまるで君に恋をしてしまったみたいなんだ。僕の鋭い手足は、君に触れることすらできないというのに。


──本当は薄々と気づいている。あの夜、僕がみたのは君ではなくて、きっと誰かの魂だったんだろう。夜、君たちは草の陰で眠っているんだから。

魂の形は君にそっくりだってことを、聴いたことがあったんだ。

それでも、僕にはもう君を食べることはできない。

君の亡骸をみつけたら、そっと葉っぱで隠すつもりだ。土に埋めたら蟻たちに食べられてしまうから。
君の命が終わるとき、僕の命も尽きるだろう。

そうして今度こそ、足を捨て、銀色の糸を捨てて、あの夜空で君と逢いたい。

美しい君へ。


~モンシロチョウ~



5/10/2023, 1:45:15 PM