睡眠という行為が怖かった。
否、今でも怖くはある⋯⋯けれども、君が居てくれるから僕は少しだけ眠るのも良いかもしれないと思えた。
夜が苦痛だった。
両親の顔色を伺いながら夜を明かす地獄の時間。
だから幼少期はまともに眠れなかったし、それが普通だと思っていた。
けれど他人(ひと)は夜に寝て朝活動する。家から出て明るく暖かな場所にいると、途端に眠くなって意識をなくすけど⋯⋯すぐに目覚めてしまう。
だから僕は睡眠は嫌いで、人の三大欲求なんて言われる睡眠(それ)を嫌悪していた。
一人暮らしを始めてもそれは変わらず、ようやく安心して眠れる環境になったのに⋯⋯眠ってはすぐに目覚めてを繰り返す。
原因は明白で、眠ると必ず悪夢を見るからだ。
幼い時の夢。両親達からの罵声や物を投げられたり叩かれたりする夢を、毎回見てしまうから⋯⋯僕は恐怖で目が覚める。
だからいつも目には隈が出来ていて、人と関わるのも苦手だったから友人と呼べる人もいない。
でも1人は楽で、怖い事も嫌なことも起こらないから快適だった。
そんな日常に突然君がやってきて、僕の読んでいた本の話だとか、好きな事やら食べ物やらを聞いてきて、挙句放課後に手を引かれて街へと繰り出す事になる。
はじめて入ったお洒落なカフェでケーキ食べたり、コーラフロートっていう物を飲んだり、ショッピングモールで何故か僕の服を選んでくれて、ゲームセンターにも初めて行って遊んだ。
それは夢の様な体験で、とても楽しくて気付いたら帰る時間になっていて彼女にお礼を言ってその日は帰った。
それから彼女は僕と絡むようになって、色んなところに連れて行ってくれて、様々な体験をさせてくれる。
アミューズメント施設から食べ歩きまで、美容院とかやったことなかった事全部教えてもらった。
彼女と過ごした日は何故か悪夢を見ることなく眠れるから、翌朝とてもスッキリして起きれるし、体調も良好で快適に過ごせるから本当に助かっている。
眠るのも悪くないと初めて思えた瞬間だった。
相変わらず悪夢は見るけど、唯一僕を気にかけてくれる君が一緒なら、いつかこの悪夢も見なくなるんじゃないかって⋯⋯そんな事すら思うようになっていた。
他のモノなんて要らない。これ以上なんて望まないから⋯⋯どうか神様、彼女だけは僕から奪わないでください。
なんて、柄にもなく神に祈りを捧げた。
5/12/2025, 6:24:05 PM