両手ひとかかえある、黄色くふわふわとした花のたくさんついたブーケがある。視界が遮られるほどたくさんの贈り物を、手近な椅子に座り見下ろした。
心がタップダンスを踊っている。足取りもこの花のように軽く、ともすれば家の中で箪笥にぶつかってしまうだろうと簡単に想像できた。ならば雲の上を歩むよりも、一度腰を据え、浮遊感に浸りきってしまおうとしている。
「……素敵」
いい香りに鼻をすんと動かす。目を閉じて、五感で喜びのもとを感じる。瞼を開けた先にあったマグカップにさえも微笑みがこぼれた。いつかの春の日、彼と共に買いに行ったものだ。
つい数十分前。彼が時計をちらりと見て、天辺を指した長針に反応して指を鳴らした。そこから覚めない夢の中にいる気がする。
『誕生日おめでとう。君と過ごす日は、毎日が春にいるようだよ。……願わくば、この花を飾ってはくれないか』
彼お得意の魔法で、あっと瞬きする間にわたしの腕に現れたブーケだって思い出の品だ。デートした日に、肩を寄せ合い仲睦まじく歩く老夫婦を、公園で見た時の。
『この花が大きく頷く頃に、また来よう。その時には永遠の約束を贈るから』
同じように頷いてくれると嬉しい。
彼が頬に羽根で触れたような感触を落として、わたしと黄色の花が部屋に残された。
「ふふ。この部屋、貰い物ばかりが増えてしまったわ」
最初からあなたさえいたら。この言葉は、みずみずしい花がうたた寝する頃に伝えよう。優しい香りを、もう一度吸い込んだ。
4/20/2023, 1:57:22 PM