My Heart
その人は月夜に舞い降りた。夜にまぎれるような黒い服を着て、ベランダの縁に腰掛けるようにして、やって来た。
「あなたの心臓を奪いに来ました」
そんなキザなセリフを甘い声で口にする。そんな姿に少しだけ微笑んで、そちらを向いた。
はめ込んだようなルビー色の瞳が爛々と輝く。先ほど言ったように、本当に奪いに来たのだろう。この心臓を食べに。でもあいにく、そう簡単に喰われやしない。私のを食べるのだから、こちらももらわないとフェアじゃない。
だから、私もいただこう。あなたの心ってやつを。そして、一生苦しめばいい。忘れるなんて、許さない。
あなたの心は私のもので、私の心臓はあなたのものなんだから。後悔したってもう遅い。
そう彼に微笑みながら、その心を奪ったのだ。
3/27/2023, 2:13:11 PM