谷折ジュゴン

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創作「無垢」

静かな眼差しが、一人の青年に向けられる。黄金に染まる虹彩の主は、ヒトの寿命よりはるかに長い時を生きている。度々、戦乱の時代を越えてなお、垢のつかぬ瞳が賢き光を湛えるのはその者がヒトを凌駕する存在であるからだろう。

だが、上位存在は一介の人間にすぎないこの青年に何故かひどく興味を抱いたようだ。かの者は事あるごとに彼を静観していた。

観察の対象である彼はいくつもの世界線上にあった。様々な平行世界に生きそして死ぬ彼を観測しては上位なる存在は一喜一憂していた。
その様子は正に無垢。

やがて、青年が己が身の上に気がつく世界線が現れ始めた。そして上位の存在からの提案を断り、あまつさえ倒すことを望んでいると、その世界線では明かしたのである。

それ以来、上位存在は自らが脅かされる世界線を全てもみ消しているのである。それ故に、上位存在の視線に青年は永久に気づかずにいる。

5/31/2024, 11:23:49 AM