マサティ

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春が障る

みなさん「春が障る」ということがないでしょうか。
肌と空気との温度差がなくなり、感覚がぼやけていく。
そんな時、春に浸食されているような気分になるのです。
自分と自分じゃないものの境が分かりにくくなるとでも言いますか、なんだかすべての事象が他人事に思えなくなります。
桜の花びらが舞っていると、自分もその花弁の一片のように感じます。
道行く人が皆、いつかどこかですれ違った誰かの様な気がします。
何も覚えていないのに、大事な何かを忘れてしまっていて胸がきゅっと締め付けられます。
それらが私自身のキャパシティで支えきれなくなって、全部放り投げだしてしまいそうな不安にかられます。
いっそ放り投げても良いのかもしれませんが、大事なものもついでに捨ててしまいそうな気がして身動きがとれません。
私が春にぼんやりとしてしまうのは、自分と世界の境を意識の底に沈めておくためです。
考えすぎると、必要以上の障りが生まれてしまうのです。
受け止めきれない気持ちは引き出しにしまっておきます。
春は温かい泥のように心地よく、うっかりしていると足をすくわれます。
もがけばもがくほど、心の何かが削られて花弁が舞うだけで心乱されます。
そんな時、私は心の中で眼を閉じ身を任せます。
春に沈んでいけばいいのです。
山の葉が硬くなり青々と繁り出す頃には、幻想の春は薄まり、世界は輪郭を取り戻しているでしょう。

4/11/2024, 6:23:50 AM