ちくちゃんが死んだ。
冷蔵庫に頭を突っ込んで、置いてある牛乳を見つめ、僕は泣いた。
鼻水やツバがプシャンプシャンと酷いぐあいに飛んでいたが、ちくちゃんが死んだことに比べて、昨日のカレーが汚れるとか、冷蔵庫がピーピー鳴るとか、全く、大したことなかった。
冷蔵庫から頭を出すと、ちくちゃんの死骸はそこにあった。
なんだか、動物だなと思った。死に顔だ。特別幸せそうでもないし、悲しそうでも苦しそうでもなかった、ただ死ぬから死んだ、というかんじ。
ちくちゃんは、四肢を投げ出し、関節は固まり、もう生気はない。
モフモフだった毛。病気をして、結構抜けた毛。
ガンだった。
ちくちゃんの前でしゃがみ、様子を見る。
ちょっと撫でてみたが、やはり毛は抜けた。
僕はまた泣いた。
『ほんとに死んじゃったの。ちくちゃん』
メールで一報いれた母からの電話である。
声を出した途端、うるさく泣いてしまいそうだったので、しばらく黙って堪えていたが、母はあらそう、とだけ言い、『犬、好きだもんね、あんた』
続けた。
『お父さんにも伝えておくけどね、あんた、しっかりしなさいよ。ちくちゃんだって、あんたが悲しんでるの見たくないわよ。ね。しっかりすんのよ』
心が暖まるような、冷えるような、不思議な感じを味わった。母は実家にも顔を出すよう一言言い、電話は切られた。
僕は昔からそういうたちだ。誰かからの言葉でいつも立ち直る。素直でいい性分だと、我ながら気に入っていることでもあり、僕は少し笑えた。
ソファから立ち上がると、泣きすぎたのか、フラと来たが、僕はもう一度冷蔵庫に向かい、牛乳を取り、さあ飲もう、というところで!
また泣いた。
悲しみを別のものに変える。
今回ばかりは難しそうである。
12/26/2023, 11:07:46 AM