年齢設定なし
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「今日はありがとうね、予定じゃなかった所までついてきてもらっちゃって」
「いや全然大丈夫。むしろ俺が行かない所ばっかで面白かったし」
「そう言って貰えるの嬉しいなぁ」
付き合って半年が経とうとしている私たちに映画のペアチケットが委ねられたのは今から2週間前。
友達から「貰ったけど映画あんまり興味ないんだよね」という言葉と共に握らされた2枚の紙切れは、デートの口実になるには十分の材料だった。
映画を見た後、喫茶店で感想を話し合っていた時に「ここ行きたいと思ってたんだよねぇ」とひとりごちていたら「じゃあ行こうぜ、今からでも間に合うだろ」と二つ返事で場所を変えてもらっていた。
こうやってすぐ行動に移せてしまうところは、私が彼に惹かれた部分でもある。
「…なぁ」
「何?」
「そこの公園、寄ってかねぇ?」
「ふふ、いいよ」
帰り際にどこかに寄ろうとするのは早く帰りたくない、という彼の意思表示であることを私は知っている。
なんだかそれが嬉しくて、思わず笑みがこぼれてしまいそうになるのを必死で抑える。
桜の木の下にあるベンチに2人で並んで座ると、ひんやりと冷たい感覚が脚に伝わってくる。でもそんなことをどうでもいいと思うほど、私はこの時間が好きなのだ。
「今日は星が綺麗だね、お月様見えないからかな」
「だな。…ちょっとさみいけど」
「さすがにね。…帰りたくないなぁ」
私の言葉をまるっと飲み込んでしまうように、息が白くなって消えていく。明日もこのぐらい寒くなるのかな…
ぼーっと星を見ていたら、コートのポケットに入れていた手が温もりに包まれた。
思わず自分の手元を見ると、彼の手が私の手を覆っているのが目に入った。
「んぇ、どうしたの」
「…何となく…」
そういう彼の耳は、街灯に照らされていてよく見えた。
赤くなっているのも、見えてしまった。
そっぽを向いていた彼の表情は分からない。
でもそんな彼を見て、私も照れずにはいられなかった。
じわじわと顔が赤くなっていくのを感じでどうしようか、と私も逆方向にそっぽを向くと、彼の手が離れていく。そして、とんとん、と肩を叩かれた。
今日はいろいろ急だなぁとか、疑問符で頭がいっぱいになっている私は、彼にまた「どうしたの」としか尋ねられなかった。
照れているのが彼にバレないように顔を向けると、手とは違う柔らかい温かさが唇に伝わってきた。
彼が色っぽい音を鳴らして離れるのとは反対に、私は再びせがんでしまいそうになる。
「…好き」
今日の彼の行動が私にとって?でいっぱいになった結果、最後の決定打によってこの2文字でまとめるざるを得なかった。
ならばこの関係が、この時間が、ずっと続いて欲しいと星に願うように私も彼に愛を伝えさせて─────。
20250210 【星に願いを】
2/10/2025, 12:29:59 PM