「私たち、ずっと親友だよ!」
パステルカラフルなゾウのぬいぐるみの横で、私たちは指切りした。
つみきで作った町。
放り投げたクッションと空になったおもちゃ箱。
親友の証に2人でつけた、お揃いのシュシュ。
座って話し続けた、角の丸いラグ。
目を瞑ると、そんなことばかり思い浮かぶ。
夢が剥がれて、勉強一色になってしまった机が、みすぼらしく目の前にある。
一緒に描いた絵は、まとめて引き出しの中に仕舞ってしまった。
引き出しの奥にしまいこまれていた秘密の宝箱を開く。
中身は見なくても知っている。
あなたと2人で一緒に集めた数々の宝物。
砂場に紛れていた貝殻、笠を被ったピカピカのドングリ、ラムネの瓶から引き上げた透明なビー玉、まんまるで真っ白い滑らかな小石…
あなたの記憶。あなたとの想い出。
思い出のものも随分減ってしまった。
私が大きくなったから。
あの頃の私は、1人で眠るのが怖かった。
あなたがいたから、私はこの部屋で朝を迎えられるようになった。
あの頃の私は、1人の時間を持て余した。
あなたがいたから、私はずっと楽しく毎日を過ごすことができた。
あの頃の私も寂しくて、理解者なんていなくて、絶望していた。
あなたがいたから、私は寂しさに押し潰されずにすんだ。
あなたがいたから…
私は大丈夫なのだろうか。あなたがいなくて。
小さい頃にあなたと2人で使ったスケッチブック。
幼い頃にお母さんに渡された、幼児用ノート。
あなたとお揃いの証につけたシュシュ。
あなたの痕跡。あなたがいた証拠。
これを捨てろ、と周りの人たちは言う。
大人になるために捨てなさい、と言う。
嫌だ、嫌だった。
こんなことをしなきゃいけないなら、私は大人になりたくない。
私はずっと子どものままで、ずっとあなたと親友でいたい。
…でもあなたは、もう、私の前に現れてくれない。
なんで?私が大きくなってしまったから?
私が悩んでいる時には、いつも答えてくれたあなたはもう出てきてくれない。
どこへ行ったの?
もう消えてしまったの?
私の、私だけの親友。
いつも私と一緒に居てくれる、空想の中のお友達。
あなたがいたから、私はここまで大きくなれたのに。
あなたには、もう会えないの?
私はぼんやり机の上を眺める。
可燃ゴミの袋の口を掴んだまま、立ち尽くす。
「ねえ、どうすればいいのかな」
私の声は、虚しくゴミ袋に吸い込まれていった。
6/20/2024, 1:47:20 PM