目が覚めると嗅ぎなれた大好きな匂いで満たされた薄暗い部屋にいることに気付いた。
「……ったた…なんか体がおもーiッッッッ!!?」
「んー、起きてんのか、工藤」
目の前に大好きな佐藤先生。ガードがゆるゆるな佐藤先生。そして、たぶん見覚えのないこの部屋の所有者は佐藤先生。まだ覚めない頭が必死に働くが思考回路は無論、封鎖されたままだった。
「え……あれ、、、え、、、先生?」
「なーんかまた難しい事考えてんだろー?大人しく寝とけ」
そうして抱きしめられるまま、私はまた深い眠りに落ちた。
2度目の起床はすっかり日が昇っていて、その頃にはもう自分がどうしてこんな状況に置かれているのかも大体把握していた。完っ全に、私が訳の分からん我儘を言ったせいでこんな…こんな……こんな…///
それからは無心で台所を借り、朝食を作った。昨日の自分の至らなさといい、未熟さといい、とにかく全てに反省しながら、そして好きな人の家に存在しているという幸せを噛み締めながらッッッ準備を終えた。
「はよ、工藤。おーご飯…うまそ」
「おはよーございます、先生。先に顔洗ってからにしてくださいねー?」
寝起きのこの無防備さ…好きッ!なんなのこの…ん?上裸……?私が起床時に服を着ていたかどうかはご想像にお任せして、とにかくこの朝イチの先生の、き、筋肉は眼福であった。先生は私が部屋にいる事も昨日の事も特に何も考えていない様子で私もついでに忘れる事にした、一時的に。もうここまできたならば、この部屋にいる時間くらい彼女面したって良いじゃないか。私がこの時間を独り占めしてやる。
「んーなんかいい匂いする」
私が身なりを整えている時の話だった。
「あ、これですか?勿忘草の香水みたいなモノですよーって近い近いっ!」
「へー勿忘草ねー。聞いた事はあるわ、マジでいい匂い。花言葉?とか気にしたりすんの?」
「あーあるみたいですよね…検索しましょーか」
「どー?なんて?」
先生が顔をすり寄せてスマホを覗き込む。
「私を忘れないで、真実の愛とかですって。先生見てー、この由来可哀想」
ドナウ川で恋人のために花を摘もうとして溺れた男が消えるまで恋人への愛を叫んだ事が由来らしかった。
健気で純粋ですごくロマンチックだと思った。
「へーなんか切ないな、それ。でも、その男、恋人の事死ぬほど好きだったんだろーな」
「そこまで愛してもらえるなんて羨ましいですねー…私の事忘れないでねーって事で先生にもふりかけちゃう、えいっ」
「うわっ、何すんだよ笑ってかなんだよ、その理由笑俺が工藤の事忘れるわけないだろ?」
「わかんないじゃないですかー!心変わりしないようにおまじないです!」
「ん?工藤は俺と結婚するんだろ?毎日プロポーズしにくる奴を忘れられる猛者はいないだろ笑」
「…へっ先生!?って事はプロポーズの返事は…!」
「あーめんどいめんどい、その時考えるわー」
その時、首筋に柔らかい感触と一瞬の鋭い痛みが走った。
「まーでも俺も工藤取られないように予約しといた」
「先生…なんか今日、めっちゃおかしいよ?甘くない?メロくない?なんなnーーッッッ!!?」
優しくてあたたかいキスだった。大切にされてるって私でもわかるくらいに甘い甘いキスだった。
「今くらい彼女面しとけよなー?1週間喋れなかっただけで昨日みたいに甘えモードになるんだろ?」
「やっぱり昨日の事無しにしてくれません?先生、お願いしますー!」
昨日過ごした甘い時間も今日一緒に過ごす大切な時間も、歳をとってもきっと忘れない。この匂いがまた記憶を紡いでくれるから。
題材「勿忘草(わすれなぐさ)」
2/2/2026, 11:35:26 AM