initium

Open App

月明かりだけが照らす薄暗い浜辺。
そこに私はただ一人座り、物思いにふける。

私は幸せだ、何も不自由ない生活ができて。
そのはずだが、心の中で “何か” が激しく動いている。
もやもやっとした、黒い “何か” が。

その “何か” は、いつも私を苦しめる。
ずっと心の奥深くまで染み入るように、チクチクと。
その “何か” は、棘のように鋭く、氷のように冷たい。

でも大丈夫。
ここに来れば、私は救われる。

波の音が、その “何か” を埋めてくれるから。

波は私の心にかぶさりながら、その音を奏でる。
いつまでも繰り返されるメロディが、とても心地よい。

私が何も言わずとも、波は私を迎え入れる。
いつまでも居ていいことを教えてくれるかのよう。

いつまでも、いつまでも、

「一緒にいてくれませんか。」

____ざざっ

と短く、けれど誠実に、返事をした。
そして “何か” は、しばらく姿を消した。

しかし私には “何か” を完全に消すことは出来ない。

だから、また現れた時には、波に会いに行くの。

#夜の海

8/15/2024, 11:00:42 AM