いつも、来ていたお客さんが
ふと顔を見せなくなった。
声は、しわがれて
目元には、深い笑い皺が
印象的だった。
ハンチング帽と、煙草の匂い。
病気を患っているのは
知っていたが、いつも相変わらずな
人だった。
亡くなったと、聞いたときは
ああ…そうかという気持ちしかなかった。
その日の帰り道は
真っ赤な夕焼けと影を成す木々が
まるでシルエットのように
物悲しく、綺麗だった。
ハンチング帽と…煙草の匂い…
それほど吸いたい気持ちでも
なかったけれど
私は、煙草に火をつけ
茜色に染まる空にゆっくりと
煙を吐いた。
【お題:哀愁をそそる】
11/4/2023, 2:21:09 PM