素人ニッターのぼやきに似た何か。
長めです。1,100字超。
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【セーター】
まだ暑い季節、休み時間に教室で毛糸を編んでいた私を、クラスメイトがからかってきた。あいつらは知らないのだ。セーターというものは多少編み物ができたからってすぐに完成するものじゃない。私の手では一着編むのに最低でも二ヶ月、他にすることがあってうまく進まなければ、下手をするとその倍は時間がかかる。
残暑が厳しいと言っても今はもう九月。クリスマスにプレゼントしようと思うなら、編み始めるのに早すぎる時期じゃない。内心では、もしこれでも間に合わなかったらどうしようかと思っている。薄手のセーターだから、最悪バレンタインでも渡せるかな……
セーターを薄く仕上げるというのは、細い毛糸を使って編むということだ。当然編み針も細くなり、デザインにもよるけど編み目は密になる。ざっくり編むより作業量は増え、進みは遅くなり、必要な時間も増える。
けれど仕方がない。私がこれを渡したい相手は暑がりで厚手のセーターは苦手だと言っていた。真冬にも薄着を好むのなら、セーターを薄くするしかないじゃないか。
マフラーを編むことは最初から諦めていた。長めのマフラーが流行りだからだ。あんな単調な物を長々と編むのは、絶対に飽きる。完成させられる気がしない。手袋は手の大きさや指の長さがわからないと難しいかなと思ったし、帽子は耳に触れるから、よほど手触りの良い毛糸じゃないとチクチクするかもしれない。不快な思いはさせたくなかった。靴下にしなかったのは、私が作った物をよく見える所に身につけて欲しかったからだ。
暖かくて軽くてチクチクせず洗濯も楽……そんな毛糸はなかなか存在しない。あったとしても物凄く高い。手作りすれば安く済むなんて、編み物に関してはあり得ない。セーターもマフラーも買った方が絶対に安いし品質も安定している。それでもどうにか妥協して私に買える中ではベストな毛糸を選んだつもりだ。
ひと目ひと目想いを込めて?
そんなことしていられるわけがない。一体全部で何目あると思うんだ。数えられやしない。計算もしたくないし。
ぼんやりしながら手だけ動かすとか、全然関係ないことを考えるとか、なんならテレビを見ながらとか、そんなふうに編み進めて、どうにか完成するのが手編みの品である。
自分の時給なんて考えてしまったら、とてもじゃないけどセーターなんか編めない。一着いくらになる? 十万か、二十万か? 市販のセーターに手編みなんてほぼないだろうけど、仕事になんかできる気がしない。
採算度外視。原価も馬鹿にできない。これでもし完成度の低い作品になったりしたら目も当てられない。せめて間違えないように編むだけだ。それが難しいのだけれど。
そこまでしてどうして編むのかって?
楽しいからだよ。それに、私が作った物であの人を包み、暖めることができるなんて、物凄く気分が良いじゃないか。
11/24/2024, 12:33:10 PM