たやは

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光と霧の狭間で

雨あがりの夕方から霧が出始めた。丁度いい。私を隠してくれる。
でも、急がなければ、すぐに朝になってしまう。

「正治。早く。もっと大きくなるように土を掘ってちょうだい。」

「へい。お嬢さん。でもこれはなんですかな」
「いらなくなったゴミだっていったでしよ。お前には関係ないわ」

「へい。」

力だけはありそうな使用人に土を掘らせ、あのスーツケースを埋める予定だ。霧に朝の光りが当たらない狭間の時間の内に終わらなければならない。

あの子が悪いのよ。そうよ。私から全てを奪おうとするからよ。何が妹よ。父と関係のあったらしい、ただの使用人の産んだ子供のくせに。穢らわしい。

母子して父に媚びへつらい、気持ち悪く体を寄せてニヤニヤしている。あーあ、気持ち悪い。あれが妹。いいえあれは妖怪よ。

「お姉さまって〜、婚約者が居るんですか〜」

あれをこのままにしていてはダメよ。婚約者の隆さんにも近づこうとしている。許さないわ。
そうね。妖怪は退治しないと。危険なものは排除しないと。危ないわ。

「ねぇ。新しいワインが手に入ったの。貴女も飲まない?」

ワイングラスに赤いワインを注ぎ、あの女に渡す。嬉しそうにワインをガブガブと飲んでいく。なんて、はしたない。

あの女が口から泡を吹きながら、その場に崩れ落ちた。そして。動かなくなった。
あの女をスーツケースに何とか詰め、使用人の正治にコスモス畑まで運ばせ、穴を掘らせる。朝になれば、この霧が晴れてしまう。あー。早く。早く。霧が晴れる前に。

上手くいった。誰にも会わなかった。
なのに、なのに、なぜ?
お父様が探偵を連れてきた。なせ?

「お嬢さん。もう終りにしませんか?」
 


10/18/2025, 2:37:43 PM