忘却者

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久しぶりの帰省で、墓場を横目に、車で田舎道を走る。

これはもう何年も前のことだ。

かつて私が高校に入学したばかりだった時、彼と出会った。

彼はとても明るくて、少し抜けてるとこもあるが、そんなとこも彼の魅力だった。

初めはなんとも思っていなかったが、関わっていくうちに彼のことが気になり始めた。

それが「恋」だと気づいたのは、高校2年生の夏。

彼が他の女の子と一緒にいると、胸が痛くなる。

こんなことに嫉妬してる自分をいっそ消してしまいたい。

そんなことをする勇気はなかったのだけれど。

高3の春。勇気を振り絞って彼に告白を。受験期に入ると、関わる時間が減るから。

彼からの返事は……

まさかのOK。

人生で最も嬉しかった瞬間だったと思う。

そんなこんなで舞い上がった私は、勉強を疎かにしてでも彼との時間を第1に考えた。

勉強も一緒にしたし、デートもいっぱいした。

何時間も、何日も、何年も、永遠に、この平和な時間を過ごせると思っていた。

ただ、そんな考えは高3の夏休みのころ、塵となった。

彼の親から電話が来て、たいそう慌てた様子だったので何事かと思えば

「あなたが息子の彼女さんかしら?うちの息子が……うちの息子が……トラックに跳ねられて……今もうギリギリの状態で……息子の……最後に立ち会えないかしら?」

……………………

……は?

いやいやおばさん。そんな冗談はやめてくださいよ。
シャレにならないですから。

と思ったが、おばさんの口ぶりからして恐らく本当のことなのだろう。信じたくはなかったが。

とにかく私は急いで病院に向かった。

我も忘れ、一心不乱に、一目でもいいから彼に会いたい。

必死に走り、病院に到着した。

彼はベットに横たわっていた…………

本当だったのか。

医者の話によればもう今日を生きられるか分からないそうだ。
即死でなかったのが奇跡だった、とのこと。

私は、涙をこらえた。

彼が目を開けたらきっと、悲しむだろうから。

いつまでも過ごせると思っていた平和な時間。
時には喧嘩したね。笑いも、苦しみも共有した。

「ありがとう」

そう彼に伝えた時には、彼の心はベットにはいなかった。



あれから10年、いや20年、もしくはそれ以上かもしれない。

私は現実を見れなくて今まで来れなかったが、ようやく彼のお墓参りに来れた。

手と手を合わせ、彼に伝えられなかった心をのせて、
思いの手紙を送る。

もう触れ合えない。話し合えない。

透明な彼に、最後の別れを告げた。

お題「透明」









5/22/2024, 7:00:35 AM