【本気の恋】
真夜中に電話一本。呼び出されて向かった行きつけのバーの片隅で、君はポロポロと涙をこぼしていた。迷惑をかけただろうマスターへと視線だけで謝罪を向け、僕は君の隣に座る。
「またフラれたの?」
「うるさいなっ……いきなり傷っ、抉らないでよ……」
嗚咽まじりに僕を睨みつける君の潤んだ瞳が、間接照明の光を受けて宝石のように煌めいていた。はいはいとわざと雑に頷いて、君の背中を軽く撫でる。
「っ、本気だったのに、なんでいっつもみんな、はなれてくの」
「そうだね、君は本気なのにねえ」
いつだって誰かに恋をしている君は、確かに他人からは遊びで恋人を取っ替え引っ替えしているようにしか見えないだろう。その恋の全てに君が本気で熱をあげて、「本命じゃないんでしょ」なんてお決まりのセリフでフラれるたびにズタズタに傷ついていることを、誰も知りはしないのだ。
その恋が本気かどうかなんて、本人にしかわからないものだろうに。他者の恋の本気度を勝手に推量するなんて、今回の元恋人も相変わらずロクでもない人間だったらしい。
「まあきっと、次は上手くいくって」
おざなりな慰めを口にして、震える君の肩をポンポンと叩いた。……付き合いだけが長い腐れ縁の友人、きっとはたから見れば僕と君の関係性だってそんなものだろう。そう思うと少しだけ、呆れたような乾いた笑いが込み上げた。
僕の心の奥底に、ずっと燻り続けている熱。君が傷つくたびに寄り添って、慰めて、そうしていつか君が僕へと目を向けてくれる日を、僕は永遠に待っている。
君のその恋の在り方ごと愛せる人は僕以外にいないんだって、そう君が気がつく日まで、十年でも二十年でも僕は涙をこぼす君の隣で、君の背中を撫で続けよう。――それが僕の抱いた、本気の恋の形なのだから。
9/12/2023, 9:58:01 PM