カガミ

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「善い行いをすれば天国へ、悪い行いをすれば地獄へ連れていきます」
突然現れた天使は「貴方の寿命は後1時間です」と笑顔で告げた。そして俺が今まで人生の中で行ってきた善悪の数が同じなため、死後どちらに向かうかをこれからの行動で決めると言った。善い行いと悪い行いをどちらもした場合は、より強い行いの方が選ばれるらしい。
天国には行きたいが改めて善い行いと言われると難しい。頭を悩ませている間に時間は刻一刻と過ぎていった。
「坊やっ!!!」
タイムリミットが間近に迫ったとき、女性の悲痛な叫び声が耳に飛び込んできた。弾かれたように顔を上げると、目の前で子供が車に轢かれそうになっていた。
「っ!」
考えるまでもなく自然と体が動いていた。腕を真っ直ぐ子供へと伸ばし歩道へ押し退ける。瞬間、凄まじい衝撃が体を襲った。アスファルトに叩きつけられ滲んだ視界に、何が起こったのか分からないといった顔の無傷の子供が映る。
俺の顔に思わず笑みが浮かんだ。最期の最期に俺は善い行いを出来ただろう。そう胸を張って言えるはずだった。
「時間です」
指一本動かせない俺の傍に天使が立つ。軋む体を動かし、顔を見上げた。
天使が笑っている。
天使が笑っている。
天使が嘲笑っている?
「貴方は悪い行いをしました。これから地獄に落ちていただきます」
どうしてと呟く間もなく深い闇へ落ちていく。
「ヒトの寿命を伸ばすなど、悪い行い以外ありえないでしょう」
真っ黒に染まる視界の中で、冷え切った天使の声のみが耳に届いていた。

4/27/2023, 9:03:16 AM