11/13「また会いましょう」
その時わたくしが出会ったのは、少年でした。
馬車が止まったと思いましたら、道で行き倒れていたのです。
すぐに馬車を降り、手を差し伸べようと近づきました。すると少年は、起き上がりざまナイフを突き出してきたのです。
私は軽くそれを払いのけまして、彼の首を掴んで地面に押し倒しました。誰の差し金ですか、と尋ねますと、少年は歯を食いしばりまして、体を跳ね上げ私の手を振りほどきますと、無言で走り去って行きました。
「よろしいのですか?」と爺が尋ねてまいりました。いつもの事ですから呆れているのでしょう。
よいのです、と答え、ドレスの裾を軽く払って、少年の去って行った方角を見、わたくしは目を細めます。
また会いましょう。
(所要時間:7分)
11/12「スリル」
生まれた時から貧民街だった。路地裏の少年ギャングとか呼ばれるものに仲間入りしたのは6歳ぐらいの時。年上の指図でスリや盗みを働いてきた。
毎日は荒んでいて、それでも楽しかった。アタシは捕まらない。捕まったって逃げ出せる。仲間のピンチも上手く切り抜ける。日々のパンだけでなく、最高のスリルにありつけえる。
アタシは嘆かない。誰のせいとかじゃなく、今をどう切り抜けるかをとにかく楽しむ。アタシは強い。
ここで生き残るのは、そういう人間だからね!
(所要時間:8分)
11/11「飛べない翼」
背中の翼を広げて水中を行く。飛ぶためではない、泳ぎに特化したヒレのような翼だ。
アリメイドと呼ばれる私たちは、翼持つ人魚とも言われる。人魚よりもなお珍しい、古い古い昔に作られた存在。
翼をなびかせて自在に海を泳ぐ私たちは、時々海上から客人を迎える。遭難した人間の男だ。生殖から生まれる子どもの半分はアリメイド、残りは人間として溺れ死ぬ。
なぜ私たちのような生き物が生み出されたのかは記録にない。観賞用と解釈されている。
空を飛べない翼、だが泳ぐことはできる。水を自由に飛べる。私たちは世界に存在を許されている。
―――人間と違って。
(所要時間:11分)
11/10「ススキ」
「昔はきっとススキがいっぱい生えてたんだねぇ」
豊平川の河川敷で寝転ぶ俺の隣で、リョウはのんびりと言った。
「何でススキ?」
「薄野、って言うじゃん」
「うすの?」
「いや待って何その漢字メタ読み間違い」
すすきの。今となっては有名すぎる札幌の歓楽街だ。
「きっと河原に一面ススキが生えててさ、そこで遊んでた子どもがいっぱいいたんだよ。楽しそうだなー」
「まあ…前見えなくて川に落ちたりしてそうだけどな」
やんちゃに走り回る子どもたちが目に浮かぶ。
「都会になっちゃったなぁ…」
「老人かよ」
中学生のセリフじゃない。ビルの群れを振り返ったリョウに思わずツッコんだ。
けれど、見たこともない景色を懐かしむ気持ちは、わからなくもなかった。
(所要時間:9分)
11/13/2023, 11:55:19 AM