—思い出の一ページ—
学校から帰ってきて五分も経っていないのに、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ダイキー、虫とり行こうー」
自分の部屋の窓から顔を覗かせると、虫籠と虫網を持ったタクヤがいた。
彼は学校で『虫博士』と呼ばれている。
「ちょっと待って、すぐ行くー」
僕も虫籠と虫網を持って、外に出る。
もうすぐ夏休みのこの季節には、珍しい虫がたくさんいるらしい。僕達は、近くの森に向かった。
「二人で手分けして探そう。何か見つけたら教えてほしい」タクヤは言った。
「わかった」
僕達は二手に分かれた。
この森は迷子にならないように看板が設置してあるので、奥まで行っても安心だ。ぐんぐんと進んでいく。
「あっ!あれって……」
一時間が経過した頃。
木の根元を歩いている、黒くて小さいカブトムシを見つけた。ポケット図鑑で確認する。
「やっぱり、コカブトムシだ……」
逃げないように、そっと虫網を近づける。タイミングを見計らい、バサっと一瞬で獲物を捕らえる。
「やった」
虫籠に入れ、引き返すことにした。森の入り口まで近づくと、タクヤの姿が見えた。虫はまだ捕まえていないようだ。
「何か見つけた?」
「うん。多分びっくりするよ」
僕は虫籠を見せた。すると、彼は驚きと喜びの顔を見せた。
「コカブトムシだ、すごい!そうそう見つけられる虫じゃない。しかもツノが立派だ。この森にいるとは思わなかった」
「な、すごいだろ」
僕達は目を見合わせて、ハイタッチした。
「持って帰ってもいいかな」
「もちろん」
僕達は二人で虫の標本を作っている。捕まえた虫をタクヤが飼い、死んでしまった虫を標本として記録に残している。
彼の父親が昆虫学者なので、そこは任せている。
「この前捕まえた『オオムラサキ』見に来る?」
「行きたい!」
また二人の思い出が一ページ増える。そう思うと僕の心も喜びで満ちていった。
きっとまだ出会ったことのない虫たちが待っている。夏休みが待ち遠しい。
お題:秘密の標本
11/3/2025, 2:19:29 AM