『たくさんの想い出』
ここにはたくさんの想い出で溢れている。比喩ではなく、物理的に。
想い出という形のないものに、物理的というのは変な話ではあるが、事実そうなのだから仕方がない。
手元にある小さなノートには、いつなにがあったのかビッチリ記載されている。このノートの何冊目か分からない。
ボクはこのノートをいっぱいにすることが何よりの喜びであったし、あの日まではノートをいっぱいにすることで得られる見返りを楽しみにしていたものだ。
だけど、今となってはそれも意味をなさないものとなった。ノートに書かれた想い出は、文字としてはあるけれどもカタチとしてはそこにない。
ボクのこのノートは、ただの紙の集合体となった。
意味はないけれども、これも想い出のひとつだ。
あの人もあの夫婦あのカップルも、取り壊されようとしている建物を見ている。
この場にいるみんながあの日の出来事を想い出している。
大変な一日だったが、これも想い出の一つになるのだろう。
ボクは手の中にあるノートをぎゅっと胸に抱いた。
11/18/2023, 1:24:23 PM