赤いヘッドホン

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バイト帰りに一人夜道を歩いていると、近所の公園の隅に、ブランコが見えた。
なんだかブランコに懐かしさを感じて、立ち止まって眺めていた。
ブランコを囲む小さな柵にはPPバンドが張り巡らされ、その領域への立ち入りを拒絶していた。
近付いてみると、暗さで最初は気付かなかったが、支柱に「老朽化のため使用禁止」と書かれた紙が貼られていた。

「こんばんは〜」
突然背後から声がした。
心臓が飛び出るかと思った。
振り向こうとすると、自分の前にそいつは立っていた。
いつの間に…?
「えっと…」
「あ、ブランコに乗りたいの?」
誰だこの子。
見覚えはないが、外見は普通に可愛いらしい少女。
家出とか追い出されたとか、そんな風には見えなかった。
恐らく自らここに来たのだろう、と感じた。
しかし、こんな時間に子どもが一人で出歩くことを許す親がいるとは思えない。
そんなヤツもこの少女も、自分の友人には居ないはず。

「…でも、来てくれて嬉しい。ありがとう。」
なんだか嫌な予感がした。
____きっと関わってはいけない、立ち去らなければ。
と思ったが、時すでに遅し。
少女が抱きついてきた。
「……あぁ、幸せ。待っていて本当によかった。」

一瞬、目眩と金縛りのような感覚があった気がした。
次の瞬間、目に映る世界は別世界に。
…どこまでも続いていそうな草原。
辺り一面が鮮やかな緑の世界に、突然現れた一軒家。
彼女が言う。
「私たちの家。どうぞ入って。」
なんだかさっきから頭がぼんやりする気がする。
さっきまで何を考えていたか忘れてしまった。
まあそのうち思い出すだろう、大事な事ならなおさら。
そういえば彼女、何をしているヒトだっけ。
まあそれも後で思い出すだろう。
なんて考えながら、とりあえず、彼女に付いて行く。
思考が行ったり来たりしている、ブランコのように。
………うん?ブランコ…?
それが『自分』の最後の記憶。

______そこから先のことは、もう分からない。

2/1/2023, 7:16:54 PM